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変わらぬ世界の角速度 第四話

 ユニオンのマリナ・ジャーナル、北公政府系のノール・ヌーヤなどの分離独立国家の商会非依存系の大手メディアやルーア共和国の四大メディアの一面に、セシリアがその人形を抱きしめている写真がでかでかと掲載されたことで、その人形が一躍話題になったのだ。(ベルカとストレルカと三人で撮った写真を提供した)。


 話題になれば自ずと連盟政府にもその噂は届くことになった。メディア自体が無くても、口伝いやキューディラの掲示板で広まっていくのだ。

 そして、かつて北公が連盟政府に属していたときに、サント・プラントンの小さな工房で大衆に向けられたものとして数十体ほど作られ、誰にでも手に届くほどの安価で売られていたことが発覚した。

 しかし、当時は人気など無かったので数も多く作られてはおらず、子どもの手に渡るというのに耐久性は考えられていなかったので、セシリアの持つ一体以外が見つかることは無かった。


 人形の写真が公開されて数日後、その人形を作ったと自称する者が連盟政府から北公に不法入国を試みて捕まったらしい。

 商売っ気を出したのか、同じ人形を量産して北公で一儲けでもしようとしたのだろう。

 しかし、どれほど同じものを作ろうと、セシリアの人形は世界に一つしか無い。


 人形は遺品として丁重に保管されることになった。そして“邂逅、許容、融和、そして共立”とどこからともなく象徴的な言葉が付けられていた。


 俺は病室に忘れられていたコートとその人形をセシリアの形見にしようとしていた。

 だが、人形の方はヤプスール中央銀行のルスラニア王家の特別貸金庫に保管されることで手元を離れることになった。

(王室が貸金庫を持つことに犯罪収益移転防止が考慮されたが、マネーロンダリングや名義の悪用をされるほどルスラニアはまだ豊かではないので特別枠らしい。

 俺とアニエスにはかなり具体的な説明があった。かつてセシリアの保護者だったので、北公で金融取引するならルスラニア王国特別貸金庫に関係しないものであっても毎回ヤプスール中央銀行まで顔を出せとのことだ。

 要するに外国PEPsだ。日本で銀行口座を持つときに考えもしなかったが、こういう感覚なのかと思い出していた)。


 結局、俺たちの手元に残ったのは数枚の家族写真と誰も使い方の分からない四次元コートだけになった。


 残念と同時に、少しだけ安心も出来た。


 これで「私のことなんか忘れて」というセシリアとの約束を守れるかもしれないと思ったのだ。

 だが、自分一人では約束の一つ守れないのかと情けなくもなった。

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