変わらぬ世界の角速度 第三話
それにしても、半ばやりたい放題であるその状況に対して、連盟政府は何も策を講じてこないというのはなんとも不気味だった。
政府も軍部も中枢に無能が多いとクロエはことあるごとに言っていたが、どれほど無能でもさすがにそれが今後引き起こす事態がどう転んでも連盟政府にはよくないということには気がついているはずだ。(俺ですら気づくのだから)。
しかし、クロエを始めとした優秀な諜報部がすでに何かを考えており、実はあえて、というものも否めないのも事実だ。ここで手打ちなどというのは考えられない。
それから、ヴィトー金融協会も完全に撤退した。
正確には撤退ではなく、分離独立からこれまでの何から何までの資金を出したのは、元はといえば協会の北部支部が独自に行っていた辺境孤児支援基金だ。
撤退というよりは、ヴィトー金融協会からは外れてただ看板を変えるだけだった。
ヤプスールにあった元北部支部は、北公の金融機関中心としてヤプスール中央銀行へと建て替えられた。
そして、北公の主流通貨は完全にエインとなり、エインとルードが混在して価値がバラバラだったが、硬貨も紙幣もエインへの両替が積極的に行われた。
ヤプスール中央銀行では両替を行ったルード貨幣を蓄えておくそうだ。ユニオンでは今後新通貨が出回るがまだルードは使える。
連盟政府においても万が一のために使えるようにしておくそうだ。
具体的な金融政策が行われはじめ、混乱していた金融市場が再び安定して回り始めた。
閣下はいずれ貨幣経済を終わらせるつもりらしい。
それまでシーヴェルニ・ソージヴァルの主流通貨はエインとなる。
ルスラニア王国も日々国家として成長していた。
王国と名前は付くものの、封建制などは微塵も見られず、社会制度は極めて北公と等しく、また技術レベルも北公と同程度なのでめまぐるしい発展をしていった。
代理の女王は具体的に神格化され、人前に出ることは完全に無くなった。
生前に参加した様々な式典やその写真によりその存在は確実にされていた。写真として残っているものの九割は代理の子だ。
まごうことなきセシリアが写っているのは、共和国で撮ったものと含めて二十枚も存在しない。
ベルカとストレルカの話では、代理の女王様は秘密の王宮で囲われているが、完全隔離というのは改められてある程度までなら自由に出歩けるらしい。しかし、ワガママし放題で手が焼けるそうだ。
名前も知らないようなその子だが、幸せそうに生きていることを知ることが出来て安心はした。俺たちのエゴで孤独を押しつけずに済んだのだろう。
色々とあったが、個人的にうれしいこともあった。
セシリアの持っていたあの人形は世界で一番有名な人形になったのだ。




