変わらぬ世界の角速度 第二話
商会が手を引いたことにより物流の停滞が予想されたが、ビラ・ホラ硝石鉄道敷設の際に一度取引のあったユニオンに物流を依頼した。
陸路は連盟政府や帝政ルーア亡命政府により隔たれているが海路では繋ぐことが可能だったので、海上輸送を活発化させることで物資を手に入れている。
難点があるとすれば、船代がかかるので少々割高なことくらいだ。
共和国も船舶を介して、取引に訪れていた。
その共和国だが、クライナ・シーニャトチカの滑走路を増やしたそうだ。完全に事後報告。
しかし、滑走路で離発着が盛んに行われているかどうかまでは聞いていない。
クライナ・シーニャトチカは友学連と北公に挟まれていて、北公のブルゼイ族管理のために作られた事務所が在る。それでも未だに連盟政府に属している。
ニカノロフ氏は散々ノルデンヴィズに顔を出しておきながら、まだピシュチャナビクの領主名を背負ったままだ。意地でも奪われてしまったという方向に持っていきたいのだ。
共和国はその宙ぶらりんな地域への支配力をちらつかせ、やがては奪い取り飛び地にでもするか、それとも北公に属させて陸路にしろ空路にしろ直線距離での移動を可能にして北公との取引を円滑にするのかを目論んでいるのだろう。
鉄道が離反した自治領のおおよその主要都市を結ぶように広く伸びることになり、それに伴う労働者から、造幣に至るまでありとあらゆる職種でブルゼイ族が多く雇用された。
彼らは定職と安定した居住、食事を得られるので進んで仕事に就き、勤勉だった。
しかし、それ故にこのままブルゼイ族が労働者階級で終わらないか不安ではある。
鉄道について妙な噂が市井で流れていた。
クライナ・シーニャトチカの東まで鉄道が延伸したのには、共和国からの秘密裡な資金提供や技術的援助があったというものだ。
軌道幅はユニオンと同じ、というよりも、ユニオンも参考にした鉄道は共和国のものなので必然的に同じにはなる。
アスプルンド博士がユニオンからの技術供与で作り上げた蒸気機関は出力重視であり、四角く、まるで炭素を蒸着させたように黒くマットな質感の外観は如何にも北公らしい無骨な作りだ。さらに、その力強い見た目に相応しく長編成が可能である。
しかし、一方のビラ・ホラからクライナ・シーニャトチカ東に向かう汽車はどことなく共和国で見た汽車に似ている。
単に貨物よりも専ら人を運ぶための様な列車であり馬力を必要以上に出すことのない作り、車内の装飾がやたらと豪華なことや終着駅が例の滑走路に近いことなどで勘ぐってしまう人が多いのだろう。
まぁ噂ではないのだが。
それよりも、北公は情報がオープンであることに対して驚きもした。




