表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1211/1860

スプートニクの帰路 第百二話

 発芽してから今さらどうしようかと悩み、いっそのことユニオンのカルデロン別宅に鉢を持っていって育てようかとも思っていた。(やりたい放題だという自覚はある)。

 しかし、配給品を持ってきたベルカとストレルカがアサガオの種が発根していることに気がつき、ノルデンヴィズの基地の隅っこに温室をこっそり作っていたことを教えてくれた。

 この二人も意外とやりたい放題していると少しばかり安堵した。


 そこは日当たりが良く、陽が照りつけると熱を逃がさず真冬でも汗ばむくらいに暑くなるらしい。

 仮に天気が悪くても、建物の暖房の廃熱の一部が流れ込んでくるようにしたので温度は二十度前後で維持されるそうだ。

 折角なのでそこをありがたく使わせて貰うことにした。


 それからというもの、セシリアは毎日自分で水をやりたがった。朝と夕方になると必ず、「パパ、アサガオ!」といって俺にポータルを開くように催促してきた。


 アサガオの種がセシリアを少し元気づけてくれたようだ。

 彼女は熱を出すと消耗しきってしまうのだが、熱を出したときは代わりに上げておくと言うと自分ですると怒るのだ。

 熱を出して赤くなった頬を怒ってぷりぷり膨らませる彼女に無理をしている様子は無く、怒る余裕が出せるほどだった。


 熱を出したときはセシリアをおんぶして水をあげに温室へと行った。ブリキのじょうろに水を目一杯入れて背中から手を伸ばしてアサガオに水をあげた。

 じょうろの穴からあふれ出してキラキラ光る水滴がアサガオに当たらないと、もうちょっと右だとか左だとか、指図をしてきた。


 ある朝、ついに双葉が顔を出したのだ。

 それは小さくてまだ黒い種の殻を付けて頭をもたげていた。そして、とても遅く目では追えないよう速さだったが見ているうちに成長し、日が昇るにつれてライムグリーンの小さな蜻蛉の様な双葉を広げていった。

 セシリアはそれに水をいつもよりも多くあげ、双葉の葉に乗る水玉に黄色く輝く大きな瞳を映していた。


 それからも彼女は毎日水をあげ続け、朝顔はすくすくと育っていった。


 古い種とは思えないほどに成長の勢いは強く、二週間も経つと葉っぱは5、6枚になっており、茎もしっかりと太くなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ