大熊と魔王 最終話
カルルさんはしばし無言になり、自らが言った「性格的なもの」と言う言葉を思い出してユリナの発言と仕草の意味納得したのだろう。「そうだな」と軽く同意するだけだった。
「では、失礼させて貰おう。今後とも敵対の可能性は低い第三国として、よろしく頼もう。出来れば友好的でありたいものだ」
「正式な話し合いの場でそれは決まるだろ。あばよ」
ユリナは話合いの終わりを悟ると右手を差し出した。ややぶっきらぼうだが、最初とは違いどこか優しさのあるような仕草だった。
カルルさんもそれに応じるように突き出された右手を掴み、視線を合わせて二、三度揺らした後、手を離した。
それと同時に二人は背を向け、ユリナは飛行機の方へ、カルルさんは車列の方へそれぞれ歩み出した。
カルルさんは車に乗り込む直前にアニエスに「では、アニエス中佐、頼めるか?」と指示を出した。アニエスは敬礼するとポータルを車の中に開いた。
ドアが閉まりしばらくすると空の車は動き出した。汽車の駅の方へと向かって走り出し、巻き上げた砂埃の渦の中へと消えていった。
反対側では、ユリナが輸送機に乗ると大きなプロペラはゆっくりと回り出した。大きな機体を滑らせるように動かして滑走路へと向かっていった。
機体は滑走路の見通しの良い直線に入ると一度止まった。
プロペラは動力を与えられると爆音と突風を起こした。さらに回転を加速させると目で追えなくなるほどに早くなり、やがて連なり円のように見えていた羽根の模様は逆回転しているように見え始めた。
機体は風に動かされるようにゆっくりと動き出して加速し、足を浮かせて飛び立った。
俺が乗っていた護衛機も続いて空へと帰っていった。
犯罪者の引き渡しは、どちらが見送るでもなく冷たく解散となったのである。
両者を最後まで見送っていたのは、飛行場に取り残された俺とセシリアだけだった。
陽炎に飲み込まれ水に溶けるように消えた車列、小さな羽虫のように黒い点となった飛行機たちを目で追いながら、砂で斑になったアスファルトの上に立ち尽くしていた。
話合いに参加したが、ただ聴いているだけの聴衆としてしかいられなかった。
銃など様々なことについて気にはなったが、その場の空気に押されて何も言うことが出来ず、めまぐるしい世界に俺たちは完全に置いてけぼりにされていた。
それはまるで仲間はずれにでもされているような気分でもあった。
だが、それ以上は何も考えないことにした。
終わったことに気が抜けて再び手を揺らし始めたセシリアは帰れることに嬉しそうになっている。
俺は最低限のことをして、しばらくはこの子の幸せだけを考えよう。
共和国の最後の護衛機が西日の中を離陸していく様子を目を細めて見送った後、セシリアを抱き上げてノルデンヴィズへとポータルを開いた。




