大熊と魔王 第二十五話
大人たちの長話にセシリアが飽き始めた様子で、繋いでいた俺の手をいじりぶんぶんと振り回し始めた。
さすがに止めさせるために前腕に力をこめて止めさせると、セシリアは顔を覗き込んだ後に揺らすのを止めた。
長い話を聞いて退屈になり、さっさと終わればいいのにと思っているのは彼女だけではない。俺も耳が痛くなるような話や動悸が起こるような事実も次々出てきたので早く終わらせて欲しいのは同じだ。
だが、ありがたいことに話合いも終盤にさしかかった様子だ。
「非常に有意義な話合いだった。我々は北公へと帰ろうと思う。イズミ君の移動魔法で……」と言いかけると俺の方を見た。
「ああ、そうだな」と思い出したようになると再びユリナの方へ振り向き、「これも話しておこう。彼の立場だが、我が国では相応のものを与えている」と話を再開した。
「ルスラニア王国女王様誘拐犯だったか? 世紀の大犯罪者だな」
「そうだな。重罪人だった。だが、その話ではない。
現時点で移動魔法が天然で使える者が北公には二人もいることになる。アイテム無しで実行できる血統がいるというのは、ただ有利というだけでは済まされず、パワーバランスを狂わせそうだ。
しばらくはいては貰うつもりだが、中佐は正式な北公所属。
こちらの認識では、彼はユニオンの所属と言うことにしておこう。その方がユニオンとの話も早く付けられる。
そちら側での立場はどうだか知らないが、ここに並ぶと言うことは相当な立場にあるのだろう? 今後の厳正な取り扱いを期待する」
「おうよ」
ユリナのあっけらかんとした反応にカルルさんは小首をかしげた。そして、「あまり関心がないようにもお見受けするのだが?」とユリナに尋ねた。
「移動魔法、と言うよりも、時空系魔法は……まぁ、こちらのある一族のおかげで大っぴらに使いづらい。ましてや天然で使えるとなると尚更だ。
私も移動魔法のマジックアイテムは持っているから、いざとなれば私が動けば良い。
そして、まぁ、正直なところ、あいつら二人は兵器とか軍事的利用はしづらいと思うのが本音だ。
戦術的には本人たちの考え方で不能。戦略的にもイマイチ。出来てせいぜい存在することでの抑止力だ。
これまでならそれでも充分だったが、今や時代が悪くて抑止はハッタリにもならない。抑止力があるならそれを上回るものを生み出そうとするからな。
移動魔法が戦いの場で節操なく振り回されるようになる前に、さっさと決めちまうこったな。
まぁ、いい。さっさとストレルカつれて国に帰れ」
俺はそれを聞いてドキリとしたが、俺どころかカルルさんとも視線を合わせないユリナは何かを隠している様な気がするのだ。
俺もアニエスも移動魔法を始めとした時空系魔法という、過ぎたる力を持っている。その行動一つでありとあらゆる状況を変えることもできる。
もしそれが我が儘に使われたときどういうことが起きるか。
だが、我が儘に使うことを誰も止めようとはしない。結果とそれで生じる責任は全て自分たちで考えろということなのだ。
ならば俺は駒でありたい。
駒でしかないと卑屈な言い方ではなく、自らがする行動の結果でどういう結果がもたらされるかどうかを正しく判断できない限り、優秀な人の下に付く駒であるべきなのだ。
そして、移動魔法という力にしがみついているだけの自分も情けない。
ユリナはその全てを理解して、誰とも視線を合わせようとしなかったのだ。




