大熊と魔王 第二十四話
「下佐からは、『商会に貴重品を没収され、負傷を理由にしばらく外れろと指示が出た』という報告を受けている。
これまでのあなたの話を考えると、貴重品というのはおそらく銃であり、外れろというのは内通任務から、だろうな。
つまり、北公がレア・ベッテルハイムに渡した銃は彼女個人ではなく商会に手に渡ったのだろう」
ユリナは目をつぶり下を向くと、瞼を押さえるように顔を擦った。
そして、あぁ、とため息交じりの声を出しながら「銃はおそらく連盟政府に流れちまったな」と言ったのだ。
「今後どうなるかは分からない。
リバースエンジニアリング出来るほどのヤツが連盟政府にいたら、銃は世界に広まっちまうだろうな。
私は連盟政府がぶっ壊して終わりだと言って商会から銃を受け取る約束をしたが、血眼で状況を改善しようとしてリバースエンジニアリングしちまうかもな。
そして、出回るのが粗悪品か、はたまた何処よりも優れた逸品か。わからんね」
「私の言えた立場ではないが、盗人猛々しいな。連盟政府で銃が使用されるようになれば戦いは想像を絶する陰惨さを極めるだろう。ますます早くケリを付けなければいけなくなった」
「頑張れ。私らはおたくらの分離独立には何もしない。だが、負けるな。飛び火が迷惑だ」
「期待に添えるようにはしよう。我々が負けるわけはないな」
ユリナが珍しく少しくたびれたような雰囲気を出している。
カルルさんは初対面からの自信に溢れた姿からは考えられないほどの疲れた表情にとりつく島もないようになると辺りを見回し、大きく息を吸い込むと話題を変えた。
「さて、もう一ついいか? クライナ・シーニャトチカの東の砂漠についてだ」
「どうするつもりだ? 基地を退くつもりぁねーぞ」
「繰り返しになるが、今後砂漠はブルゼイ族の土地とする予定だ。だが、この前哨基地については黙認しよう。ある程度までなら拡張も許す」
「嫌な言い方だぜ。許可を出してやっから、共和国も砂漠はブルゼイ族の土地であると認めろと?」
「他国の承認が必要なのは、我々が主張することと同じくらい重要だろう」
「だが、お前の目的はそれだけではないだろ。いざとなればそこから飛んで連盟政府の爆撃でもしろってか?
ユニオンか友学連の飛行場が使えればサント・プラントンも航続可能距離圏内だしなぁ。はっはっは」
カルルさんはそれにノーとは言わなかった。商会と銃の話が出た直後だ。北公は万が一の場合に備え、共和国への寛容な姿勢をアピールする為だろう。
「イズミ君やアスプルンド博士がよく言うのだが、航空戦力とはそれほどまでに重要なのか? 私自身はその力を目の当たりにしたことはないから想像がいまいちだ」
「だったとすれば、どうする? 航空機の技術はユニオンの専売特許だ。技術立国としては悔しい限りだが、私からは何も言えない」
ユリナのそれだけの返事でカルルさんは何かを察したのだろう。あっさりと「そうか。充分だ」と言うとその話題を終わらせた。
「今回はあくまで犯罪者の交換だけだ。正式な調印は行わない。それ以外は全てただの口約束ということになる」
「約束は口だろうが約束だ。守るべきものであることに変わりは無い。ウチの市民様に被害が出ないかぎりな」
「そうか。こちらもそうあろう」




