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大熊と魔王 第二十二話

「あの間者一族をまだ籍に置いてるのか」とユリナが低い声で呆れたように言うと、カルルさんも「相手だけが得をしているわけではない。こちらもこちらなりの使い方がある。あなた方のモンタンのように」と言い返した。

 ユリナは「なるほどね」と口をならした。


「下佐の話に基づけば、商会とアスプルンド零年式二十二口径雷管式銃の取引をしたのは、連盟政府のどこかの自治領ではなく、共和国だそうだな。

 少々意外だ。共和国にはすでに雷管式銃が普及しているではないか」


「国防上の懸念だ。連盟政府に銃が行かれても困るんでな。

 それにジューリア、ウチの使用人の話じゃ、こちらのものよりも精度が僅かばかりに高いらしいな」


「北公には天才がいるのでな。

 共和国に戻ったというのであれば、何処に売られるか分からないようなハイリスクの取引をしておきながら我々も安心できる。

 しかし、兵器の流出、リバースエンジニアリングについては咎めないのか?」


「それをこれ以上されるのは御免被りたいんだよ。おたくらのはもう仕方ない」


 ユリナは仕方なさそうな笑顔を見せたが、素直にそうだと受け取れる表情ではなくその裏に何かがあるような気がした。

 何せユリナは武器メーカーのギンスブルグ家の者だ。作って売ってやるとまで言い出しそうだ。


 カルルさんもそれには気がついていたのだろう。「なるほど、では、するつもりのなかった謝罪の必要は無いな。ではその先の話を続けよう」と受け流すように頷いた。

 ユリナは些かムッとしたように顎を上げたがつっかかることは無かった。


「商会とつけた話に則れば、我々北公は共和国から無煙火薬、それにより作られるガンパウダーを調達することになる。

 だが、我々は硝石を大量に入手した。しかし、我々が共和国から無煙火薬を受け取らなければ、取引として成立しなくなってしまう。

 銃をこちらが既に差し出した以上、取引は成立させて貰わなければな」


「随分律儀だな。共和国を火薬入手の安パイに利用したことへの義理立てか?」


「万が一、ということもある。

 私とて文献でその存在は認知していたものの、やはり確実に存在すると目では見ていなかったからな。

 硝石に関して言えば確実に存在していたので、あった、ともはや過去形だが。あるのを確認しても、その持ち主が差し出さなかった可能性も考慮した上でな。

 申し訳ないことをしたと謝れば済むが、それでは物事が終わってしまう。取引というのは架け橋でもあるのだ。

 そこで、我々は北公の弾薬に使用される成分のガンパウダーを我々よりも効率的に作れるという共和国の生成方法を学びたい。

 我々は二酸化窒素を得る為に濃硫酸を用いている。そちらは硝酸を得る際にアンモニアを……」


「冗談じゃねぇなぁ」とユリナは思い切り突っぱねた。


「ありとあらゆる可能性を考慮して動くのは素晴らしい。私らもあんたの立場ならそうするだろう。

 しかし、おたくらと取引するというのなら、私らがするのは魚を与えるだけだぜ。たんまり食って貰わなきゃな。

 魚の捕り方と一概に言っても、利用される方法は他の産業へも転用可能。そいつを教えちまったらこっちの産業が守られねぇんだよ。

 そして、限定的な需要しかない物をわざわざ大がかりに作るなんざ、馬鹿のすることだ。

 作り方を教えて欲しけりゃおたくの銃が世界基準になるように頑張りな。現状でできてるなら自分のとこでやれ。

 雇用の問題があるなら尚更だ。自分らで作り続けろ」

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