大熊と魔王 第二十一話
「事実、世界の半分であるエルフたちはすでの私とその一味の手の中だな。
こっちの指導者が偏ってるのは帝政の頃から変わらないらしい。
帝政の頃から考えれば共和国はデカくて古いもんでね。これくらいでなければ選ばれない。
ちなみに、私は共和国の中ではだいぶ甘ちゃんな方だぞ。他の二人が来ていたらお前さんは渡り合えなかっただろうな」
「共和国とは魔界なのかね? あなたの意見は末恐ろしいが、興味深い。参考にしよう」
カルルさんは話に一段落が付いたように息を鼻から吐き出した。「しかし、」と言うとちらりと俺を一瞥して話を続けた。
「国が増え、強い指導者の台頭。互いに譲らぬ主義主張。平和というものからはどんどんと離れていくな」
「エルフと人間、昔とは違って共通意識が生まれ始めてはいるからな。
今後どうあろうと私が願うのはあくまで共和国市民の安寧だ。人間側の意識が変わることで得られることの中にそれも含まれる。
殺し合いの戦争から主義主張のぶつけ合いだけで拮抗状態になるまでの過渡期なんだよ。やがては収まるだろ」
「それは、やがて世界全体をどれか一つの主義が覆い尽くして決着が付くとでも言いたいのかね?」
カルルさんはあっけらかんと尋ねたが、ユリナは目を見開いた後にしばし硬直した。そして、笑いながら「怖いこと言うねェ」と言った。
「まぁ何にせよ、そう言う主義主張でぶつかり合うのは目下起きている世界分裂大戦の後だ。そのときはそのとき考えよう。まずは兵士に仕事を与えなきゃな」
カルルさんは納得したように頷き、「目の前の問題を無視しては進めないな」と姿勢を改めた。強ばっていた空気が多少緩んだ。
「では、続いて火薬の話をしよう」
しかし、火薬と言う言葉が出た瞬間、直前の笑顔で緩んでいたユリナの顔は刹那に引き締まった。
変化に気がついたカルルさんはユリナを窺うようにして間を開けると「謹慎中のポルッカ・ラーヌヤルヴィ下佐から話は聞いている」と付け加えた。




