表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1201/1860

大熊と魔王 第十九話

「過程が平等は正義じゃねぇ。平等主義を謳うなら、結果が平等になるようにしな。

 だが、それは難しいぞ。結果を同じにすると過程が不平等になる。

 持たない者も持つ者もそれぞれにばらばら。与える量も取り上げる量も不平等。過程を覆えば秘密が生まれ、それがまた不満を招く。

 そもそもの話になるが、国の最終目標である結果っていうのは、いつのことを言うんだ?

 国の成長の結果、ということは国はその時点以上での成長は見込めないってことだ。

 だが、国家とは如何なる形であれ成長がなければ滅ぶ。つまり、永久的に過程である必要があるんだよ。

 人間もエルフも、所詮は猿から進化した者。その目は動いてるものしか捕捉することは出来ない。目の前で変動する損得しか見られないから、固まった結果ってのを予測できない。

 民主的な資本社会であれば、もたらされた結果に差が生まれても責任は個人に帰属する点で楽だな。

 平等では無い資本社会であれば競争が生まれる。競争が生まれることで何が良いかというのは、誰より豊かにと争い続けることで、過程の中で恒久的な成長が見込まれることだ」


「なるほど。だが、それが正しく機能するのは蹴落とし合いが無い場合だけだ。

 勝利というのはただ勝ったという事実だけではなく、自分が上に上がるか相手が下に下がるかのどちらかだ。競争が生まれた社会の恒久的発展の為には結果は常に前者でなければいけないはずだ」


「敗北者はみんな卑屈になり、やがて蹴落とすことしか考えなくなるといいてぇのか」


北部辺境(シーヴェルニ)社会共同体(・ソージヴァル)の社会システムに勝利は無いが敗北も無い。

『技術発展と恒久の平和の為に皆等しく尽くす』と前を見ていれば何不自由せずに生きていける社会へと導くのが私の使命だ」


「あくまで性善説か。私の行動原理とは逆だな。

 確かに、正しく機能すれば、それはユートピアだ。だが、その正しさを判断する者が非合理的な自我を持っている限り、ユートピアは訪れない。

 私は平等主義を否定はしない。資本主義社会には競争を生む為の多様性が求められるからな。

 予め言っておくが、私が否定しなくとも、私らとおたくらの主義主張はいずれぶつかり合う。それだけは覚えておけ」


「自分が正しいと互いに思い込む者同士の友好は、友好的とは言えないということか。それも踏まえて“何もしない”というわけか」


 カルルさんは納得はしていないが理解したようにそう言った。

 そこへユリナは「そういえば、おたくらはなんで連盟政府に反旗を翻したんだ?」と尋ねた。


「貴族社会の腐敗により、あなたが言ったようにまさに停滞して発展が見込めなかった。それを動かす為だ。

 采領弁務官たちに働きかけるのはもはや不可能と判断したので独立をした。そちらが帝政から共和制に移行したようにな。

 そして、スヴェンニーに限らず被差別民族・集団への見方の改善だ」


 ユリナはそれには眉をしかめ、腕を組み顎に手を付けた。


「私の知る限り、連盟政府は確かに腐りきっていたが圧政を敷いていたわけでもない。

 自治領の制度で、ある程度は各々に裁量が任されていたハズだ。それこそ、アンヌッカとか言うゲスからアホウドリとかお前みたいなのが居た程度にな。

 スヴェンニーを始めとした者たちへの差別意識は政府中枢が明確に言葉にしたわけではない。これまでも何度か被差別撤廃の運動は起こっていた。そのたびに失敗をしていたがな」


 ユリナがそう言うとカルルさんは鼻から息を吸い込み、何かを言おうとしてわずかに口を開けた。だが、ユリナは間髪入れずにその仕草に割り込み「自分たちならうまくいく、とでも言いたいのか?」と遮った。


「法整備をするつもりだ」


「それこそが助長するんだよ」と再びユリナは遮った。


「大衆意識を法律で変えようとするのは抑圧と増長を生み出すからな。

 具体性の無い目的に法律を付けて、見せかけの具体性を持たせようとしてるだけなんだよ。

 私からすれば、お前らは連盟政府の体制がただ何となく気に入らないから独立したとしか思えないんだよ」


「手厳しいな。ではどうすればいいのだ?」


「簡単だ。でも自分で考えろなんて言わないさ。

 メディアを使え。個人が自由に情報発信がまだ出来ない時代だ。真実かどうかではなく、そこに書いたことを真実にすればいい。

 市民は戦争だの何だのでエンタメに飢えてるんだ。メディアこそ最大のエンタメ。みんな求めるから効率的に意識を操れるぞ。

 思想の啓蒙は教育では進まない。では何が一番いいか。エンタメだ」


「教育ではダメなのか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ