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大熊と魔王 第十八話

 ユリナは何か思いついたように視線を上に向けた。そして「少しばかり話がズレるが」と言うと目をつぶり人差し指を立てた。


「――昔々、とある国に住んでいた市民ジョニーは志願して兵士になり、戦争へ行くことになりました。

 そして、彼は出兵前に恋人に手紙を宛てました。“戦争はクリスマスまでには終わる”ってな。

 だが、蓋を開ければ戦争は四年も続いた。

 彼は生きて故郷へと帰って来られたが、彼をジョニーだと誰もわからなかった。恋人さえも。

 恋人はその年も美味しいブッシュドノエルを作っていました。

 でも、ジョニーは恋人のブッシュドノエルを知らない男が食べているのを、片方の目の滲んだ視界越しに遠くから見ることしかできませんでした。

 でもそれは魔法の無い幸せな世界のお話。不思議でステキで便利な治癒魔法のあるこの世界では、果たしてどうなることやら。

 足があれば逃げられた。腕があれば自殺ができた。怪我は無限に治されて、素晴らしい義手義足(マジネリンプロテーゼ)が付けられて、潰れた喉で嫌だと言っても戦わされて、死ぬ以外に戦場から……」


 カルルさんはユリナの言葉に顔を背けた。


「クリースマスが何かは分からないが、それには納得だ。我々も銃により戦い方が大きく変わった」


「新聞、ラジオ、様々なメディアが陰惨を極める戦地の音を直接茶の間に伝えるられるようになった結果、世界は恐怖に陥る。そこで時代は強い指導者を求めるようになるぞ」


「一つ尋ねるが、あなたの言い方では他人事のような印象を受ける。あなたが無関心というわけでは無く、それは“人間の世界での”話ということか?」


「そうだ。共和国はエルフの国だから違う。

 早くから自立し盤石な共和制資本社会において私ら指導者は、皆様の皆様のための皆様によって選ばれた指導者でなければいけない。

 何処よりも進んだ資本社会で、独裁者は嫌われる。だが、外敵である人間の世界は恐怖の時代に突入し、独裁者を始めとした強い指導者が台頭する。

 こちらもそうならなければいけないかと言えばそうでは無い。

 幸いにも敵は唯一にして未熟。だから、対峙するときは“対外的に”強い指導者であればいい」


「北公は争いを生む資本社会を肯定しない。あなたの言い方は優れた社会は資本に重きを置くと言いたいように聞こえる。それに私がいずれ独裁者になるとも聞こえる。良い気分ではない。

 目指すのは平等主義社会だ。貴族平民などという地位は存在せず、私はその中で指導者という立場というだけだ。

 その指導者というのも農業や工業との職業の差などなく、一労働者であり独裁者では決してない」


「結構、結構。確かに平等であれば争いは起きない。

 聞いたところ、お前さんは元貴族のくせに質素な性格らしいな。

 だが、平等主義は難しいぞ。トップが質素だからうまくいくなんてのは幻想だ。まずスタート地点が既に平等じゃないからな」


「聞かせて貰おうか」

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