大熊と魔王 第十五話
ユリナは鼻で笑った後「ホラ、プレス、写真!」と顎を動かした。
するとキャスケットやハンチングを被り、淡い色をしたフランネル地のスーツの上にフィット感の無い防弾チョッキを着たエルフが三人、チョッキをだふだふ揺らしながら落ち着き無く駆け寄ってきた。
三脚と黒赤の冠布をカルルさんとユリナとストレルカの横に立てた。
ユリナが「おっさん、あんたもあっち見ろ」と言うとカルルさんもカメラの方へ向いた。その瞬間にハンチングの男が冠布を被り、同時にフラッシュバルブを焚いた。
いきなり未知の閃光を向けられたカルルさんは怪訝な顔で写っているのだろう。
同じく写り込んだユリナが大きな反応をしていないのを見て冷静なままだったが、ガチャガチャと片付けてわちゃわちゃと去って行くプレスたちの背中を見ながら「何をした?」と彼女に尋ねていた。
「写真だ。鏡に映ったモンを固定して記録したようなもんだ。
ユニオンの時もそうだが、毎回説明がめんどくせぇ。できあがったモンはあとで焼き増ししてくれてやる。それで理解してくれ。
何にもねぇよ。寿命が減ったり、ビョーキになったりもねぇ」
ユリナはそのままカルルさんに構わず、抱えていたボードを開きペンと共にカルルさんに渡した。
カルルさんは押しつけられたように渡されたそれの内容を読んでいたのか、視線が左右に流れた後、そこにサインをするとボードを閉じてユリナに渡した。
そして、再び握手をして犯罪者の引き渡しは終わった。
「犯罪者の引き渡しは終わりだ。じゃ、ついでで本題の長い話に移ろうじゃねぇか」
ユリナが左手を上げると後方にいた軍隊は一斉に回れ右をして解散した。それを見たカルルさんもベルカに合図を送ると、そちらも解散になった。
両軍ともに自由な姿勢にはなったが、楽しげに交流をするような雰囲気ではなかった。
解放された北公やルスラニアの軍人は旋回している飛行機を恐ろしげに見ている。飛行機を見るのは初めてで恐ろしいのだろう。
ストレルカはその場に残り、ベルカは軍に指示を出すとカルルさんの傍へと来た。
俺とアニエス、セシリアも彼の近くに――と言っても五メートルほど離れた辺りに集まった。
しかし、そこで俺は立ち位置に困り、とりあえず中間辺りにこっそり移動して突っ立った。それを見たユリナに鼻で笑われた。
「ジャム入りの茶も芋料理も出ないぜ? 予定は開けてあるがお互い忙しいはずだ。立ち話で済ませよう」
「構わない。早速だが、我々の関係はどういうものだ?」
「戦闘状態ではない他国。
私らは一応誰かさんに気を遣って差し上げて公式発表は差し控えたが、お前らを国として認めている。
早雪直前で分離した時点でやがてはそうなるだろうと踏んでいたし、その方向性で進めることも四省長官で決まっていた。それはムーバリから聞いてるだろ?」
「では、国家として対等で扱って貰おう」
「あくまで対等であろうというわけか。新興国のくせに生意気だな。だが、卑屈なだけのクソ野郎とは話もしたくないからな。それもいいだろう」




