大熊と魔王 第十一話
ノルデンヴィズの指令部敷地内の中庭にポータルを開き、ベルカを先頭にして四人で踏み込んだ。すると兵隊にあっという間に取り囲まれた。
女王誘拐の件は口外されていないので、突然基地内に踏み込んできた部外者に警戒し銃を構えられた。
そこにいた兵士たちにベルカは銃を下ろせとやや強めに命令した。
事情を知らない兵士たちは顔を見合わせて戸惑いを見せたが、「三秒以内に下ろさねぇヤツはクビだ」と首の前辺りで親指を横切らせる仕草を見せると素直に銃を下ろした。
ベルカはさらに指揮を執っていた北公軍の士官にずんずんと向かっていき、カルル閣下に話があるから通せと命令をして俺たちを通させた。
カルルさんは会議中だったが、急な面会に応じてくれた。だが、別室というわけにもいかず、幹部が勢揃いする前で静かに怒られた。
運良くその出席者の中にエルメンガルトが居合わせており、セシリアに気がつくとカルルさんに「咎めるな」というギラギラとした視線を送りつけてくれたので、そこまで厳しくは言われなかった。
彼女は例の宣言によりブルゼイ族が脚光を浴びている今時、ブルゼイ語や歴史の権威であるが故に連盟政府領であるクライナ・シーニャトチカに安易に戻れなくなり、あの埃と本だらけの家の中身丸ごとこちらへ越したらしい。
共和国での一連のことを話してユリナから受け取った手紙を渡すと、カルルさんはその場で読んだ。会議中だったことが幸いに、その場ですぐさま話し合われストレルカの引き渡しに応じることになった。
キューディラでの会談がまず行われ、双方の外交部同士で日程などの綿密な計画が練られることになった。
二国間の正式な協議ではなく、加えて二国間において戦闘状態であるという認識もないので、捕虜の交換ではなく、あくまで侵入者が“偶発的に”発生してしまったことを強調した“犯罪者の引き渡し”と言う形でカルルさんとユリナが顔を合わせることになった。
どこで行われるかについて、お互いが現地に赴くわけにはいかず、ちょうど中間地点にあたるクライナ・シーニャトチカが理想的にされたが、そこは一応にも連盟政府の領土内ということで不可能なので共和国が残していった基地を利用することになった。
乾燥地帯、砂漠地帯に共和国の基地があることで話し合う前に問題が起きるかと思ったが、砂漠の領有についてはまだ定かではなかった。それについても話し合われることになった。
そして、一週間後に共和国軍基地でのストレルカの引き渡しが行われることが決定した。
会談が行われることが決まるや否や、ペースが落ちていたビラ・ホラ~クライナ・シーニャトチカ近辺への砂漠鉄道の建設のペースが上がった。
カルルさんを現地まで送る為に必要となるので、最優先と号令がかかったのだ。
急ピッチで行われ、要人を運べるほどの安全性などの成果を世間に示すというのが目的でもある。
実際は、護衛の観点から電車に乗るのは影武者であり、カルルさん本人はアニエスの移動魔法で行くのだ。
半分近く残っていた工程を全て完了させ、引き渡しの二日前に鉄道は完成した。
一方、共和国側のユリナは一人で突っ込んでいくつもりだったようだ。
超大国の長の一角として単身で乗り込むことで威圧するつもりだったのだろう。
だが、それはさすがに相手をナメすぎだとシロークに説得されたようで、単身では行かずに、ガウティング戦略型長距離輸送航空機と護衛の小型機五機で基地に乗り付けて、見せびらかすように駐機して話合いをすることにしたらしい。




