大熊と魔王 第九話
「ヘェ、アタシらを拘束するつもりかい?」
ユリナが「そうだなァ。じゃそうしよう」と言うと同時にベルカとストレルカがぴりついた殺気を放った。
二人とも武器にいつの間にか手をかけている。顎を引きユリナを睨みつけ、今にも斬りかかりそうだ。
だが、ユリナは二人の手の先にある武器をちらりと見ると「は?」と間の抜け顔をした。
「なにイキリ立ってんだよ。安心しろよ。お前らが二、三日普通の部屋で大人しくしててくれりゃいいんだよ。
メシも出す、っつーか、一家団欒に招待してやるよ。それに風呂もあるぞ。使いたきゃ泳げるくらいの大浴場も使わしてやる。部屋の蛇口でも捻れば湯も出るぜ?
お前らは表向きは不法入国者ってことになるが、私からすれば北公との話し合いの場を持ってきてくれた使者みたいなもんだ。扱いも暴れさえしなきゃ悪くはしねぇ。
国家間の犯罪者取引のパフォーマンスってだけでこっちでは前科は付かない」
「信じて良いんだろうな? 北公は勢いがあるけど、戦争も抱えてるからぴりついてる」
完全に戦闘態勢に入った二人では何を言っても挑発にしか聞こえないだろう。二人にユリナの真意を伝える為に、俺は身体を乗り出して三人に割り込んでユリナにそう尋ねた。
「うっせーな。当たり前だろ。お前ら、最初に来たとき軟禁されただろ? あんときみたいな感じだから安心しろ。あのときよりは行動範囲狭くなるがな」
ユリナが厄介そうに俺の方を向いていった。
すると、ベルカとストレルカが確かめるように俺を見たので、大きく頷いた。すると二人は信じてくれたようで、武器から手を放し背筋を戻した。
「決まりだな。じゃお手紙書くから待ってろ。
まずは犯罪者追ってたら共和国に入っちまってとりあえず拘束してるって建前を並べたヤツ、それからお話をしたいって本音のヤツだ」とユリナが顎を二、三度小刻みに動かすと、女中が横から紙とペン、それからインク瓶をユリナの前にするりと置いた。
紙を開き手で伸ばしてペンを持ち上げた。瓶にペン先を二、三度浸して何かを書き始めた。
しばらくかりかりと音を立てていると、「イズミ、お前届けろ」と書きながら言った。
「あー、申し訳ないんだが、俺たちは北公に戻りづらい」
「ああ、そうか。そうだな。女王様の誘拐犯だったな」
「事情が伝わって今なら戻っても大丈夫そうな感じになったらしいが、この二人がいた方が戻りやすい」
そういうと、ペンをピタリと止めて顔を上げて俺を見つめてきた。




