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大熊と魔王 第四話

 家の前には既にユリナがいた。腕を腰に当てて仁王立ちになり、俺たちが出てくるのを今か今かと待ち構えていたようだ。

 帰ってきたのはついこの数分前なのだろう。まだ制服を着ている。二人には残念なだが、脱出は間に合わなかったようだ。

 開いたドアから真っ先に顔を覗かせたのが俺ではなくベルカであることにユリナは驚いたようだ。口を丸くして顎をあげている。


 ウィンストンは察しが利くのでこの二人が俺と行動していることを特に気にかけようとはしない。

 しかし、ユリナは状況を察していても性格的におちょくりたがるのだ。それに激昂してユリナに対して手を出してしまうと面倒なことになる。

 この二人が束になってもユリナには敵わないが、セシリアもいるので出来れば暴力的な展開を避けようとして、俺はドアの前で石のようになった二人を力尽くで押し退けて外に出た。


 しかし、時既に遅し。「あるぇ? なんだか愉快な二人組つれてんなぁ、ふははっはぁ」と、ユリナは上げていた顎を引き白い歯をむき出しにして上目遣いになり、獲物を前にした魔物の如く二人に狙いを定めていた。


「ユリ……」と呼びかけようとしたが、ユリナは土埃を上げて姿を消した。

 気がつくと俺の背後で石になっていたストレルカの真横に立っていた。彼女に巻き付くように肩に手を回している。

 頬と顎を人差し指でなぞると「元気ィ?」と歯をむき出しにしてねっとり絡みつく水飴のように笑った。

 ストレルカはまるで大蛇の冷たく乾いた表皮で全身を絡め取られ、動けば頭から丸呑みされてしまうウサギのように硬直している。

 セシリアがユリナの姿を見て目を丸くして怯えてしまったので、抱き上げてやった。


「ユリナ、落ち着け。そいつらと敵対してない。むしろ今はいてくれないと困る立場だ」


 ユリナは巻き付いたまま、俺とセシリアを交互に見て

「あー、うそうそ。セシリアちゃぁぁん、パパとママと、それからなんかコイツらと一緒におでけけ出来てよかったでちゅねぇぇ」

 と言いながら首に絡めている腕の力を抜いた。


「フラメッシュから全部聞いてる。こいつら着てるのは新しい国の軍服だろ? 出来たばっかりで生地もカチカチじゃねぇかよ」と灰色軍服の肩を生地を確かめるように摘まんで引っ張った。

 ストレルカは離れるために腕や肘に力を込めて押しのけようとしたが、ユリナの腕の形は石像のように固まり動くことはなかった。

 しばらく脱出を試みてもがもがと暴れていたが、ユリナが腕を膨らませて再び締め上げると押さえ込まれて大人しくなった。

 ユリナはストレルカの首筋に頬をなぞらせながら「もぉう帰っちゃうのかぁ?」と尋ねていた。

 尋ねられているのはストレルカだが、彼女は史上最悪の天敵に絡め取られている恐怖でそれどころではなさそうなので「ウィンストンさんに用事があってもう終わったからな」と代わりに答えた。


 ユリナはふーんと鼻を鳴らすと、「人ン家に勝手に入って、主人に挨拶も無しとはなぁ」と言うと今度はベルカの肩にも手を回し蛇のように滑らかに動かしながら巻き付き、二人を抱き寄せた。

 二人の引きつる顔の間にあるユリナは目に影を落として表情を隠そうとしているが、完全に捕食者の顔をしている。

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