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スプートニクの帰路 第九十七話

 歯止めの利かない情報はブルゼイ族にもじんわりと広がっており、彼らも各地で動き始めているらしい。


 連盟政府軍はノルデンヴィズ南部よりさらに南下した戦線とマルタン戦線の維持に兵のほとんど割かれており、その結果治安維持に不安が生じているらしい。

 その隙を狙って、ブルゼイ族たちが小規模だが蜂起をしばしば繰り返し起こしていて、自警団だけでのコントロールが厳しくなり始めているそうだ。


 北公軍の指揮系統において、それを刺激してさらに連盟政府の疲弊を引き起こし戦況を有利に進めるという案も考えられた。

 だが、現在の作戦は侵略のためではなく独立のためであり、敵兵力分散は先んじて独立したユニオンのおかげで既に成されていた点や民間人のシーヴェルニ・ソージヴァルに対する印象を悪化させない為にも、滞留ブルゼイ族に非公式なルートで冷静な行動をするように呼びかけたそうだ。


 滞留ブルゼイ族が少ない情報を頼りに辿り着くピシュチャナビク領クライナ・シーニャトチカは重複地域であり防壁の穴になる可能性がある。

 さっさと併合してしまえという強硬派もいるが、あくまで侵略ではないという意志を貫く構えがあるので併合はしないそうだ。

 一方、そこを治めている領主のニカノロフ氏は相変わらず受動的な姿勢であり、あくまで侵略されてしまったので仕方なく従属することになってしまったと言う流れを今でも期待しているようだ。

 最近では入り込んでいた北公軍が撤退するに出来ない状況を鑑みて意地になっているらしい。

 領所属の軍人が各地の戦線で人質状態なのは理解できるが、その態度が北公の一部猛将たちを苛つかせているのは言うまでもない。


 今のところ、クライナ・シーニャトチカ経由でスパイとして矯正したブルゼイ族を送り込んでくる様子は無いらしい。最も効率的な方法にも拘わらず採ろうとしないことは逆に不審だそうだ。

 ここまで追い詰められているにもかかわらず、いくら連盟政府の十三采領弁務官理事会が無能集団であっても何もしないと言うことは考えられない。

 聖なる虹の橋(イリスとビフレスト)といった比較的独断で動く組織もあるので、何かあるかもしれないと警戒を強めているらしい。


 そうこうと話して時間が経つうちに、話の内容に沿うように雰囲気は穏やかではなくなっていった。

 話し合う者は皆肘をテーブルに就き、顎を弄りながら、前のめりで眉間や眉をしかめ始めていた。

 しかし、「出来た」というアニエスの一言で俺たちはヒミンビョルグの山小屋に意識を戻された。

 コーヒーは冷めきって苦くなっており、膝の上のセシリアは落ちてしまわないようにと支えていた腕に身体をぐったりと預け、よだれを垂らしながら気持ちよさそうな寝息を立てていた。


 アニエスは直し終わった人形を高く持ち上げて覗き込んでいる。彼女の傍に寄りできあがった人形を見て驚いた。

 綺麗な金髪碧眼の人形の服はあり合わせの生地しか使われていなかったのに上品に直され、まるで高価な人形のようになっていたのだ。

 セシリアをイメージした水色のサラファンのような服にフリルを二列ほど付けて、さらにアクセサリーとして緑色の魔石、以前俺がベルカとストレルカに投げ渡した治癒魔法を込めていた魔石をしつらえていた。

 心なしか人形の表情も、新しい服を貰えたことで笑っているようにも見えた。


「さッすが、中佐殿は器用だぜ」とストレルカが言うと、「お前と違ってな」とベルカが横から笑った。ストレルカはうっさいわとベルカの頭を叩いた。

 大声でのやりとりにセシリアが目を覚ましたのか、腕の中でもぞもぞと動き出した。目を開けると小さく伸びをして目を擦り、覆い被さるように覗き込んでいる大人たちを寝ぼけた眼差しで見回した。


「で、パパさんよ。どういう理由で渡すんだい?」

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