スプートニクの帰路 第九十六話
商会は掲示板機能の権利は持っているが、直接の管理はダリダさんがしていた。
彼女は今なお行方不明だが、とりあえず現状では問題なく使用できているし、無ければ成り立たないので事実上の野放しだ。
キューディラのシステムは全て彼女のが構築したものであり故障はまずないのだろうが、万が一のときのことは考えていないのだろう。
彼女の行方について俺とアニエスは生存していると言うことだけは聞いているが、話を聞く限り公には死んでいることで話がまとまっているのだろう。
連盟政府は、反逆者を排除したと声高に訴えておいて実は生きていたなど恥曝しもいいところで、死亡したことにしておきたいのだ。
権利者である商会はダリダさんにほぼ強制的にでも協力を頼めるが、行方不明であり連盟政府内部にもいないともなれば、商会でさえも手の打ちようがない。
だが、商会も停止するぐらいの措置なら出来たはずだ。それくらいなら余裕だとレアもドヤ顔で言っていたはず。
最近では傍受も出来るようになったと聞いている。どれほどの精度で出来るのかは知らないが、やろうと思えば何もかも明るみに引き摺り出すことは可能なのではないだろうか。
とはいえ、停止や特定はまだしも、全権譲渡などあの商会がするわけもない。拒否して当然だろう。
しかし、停止や特定をやらない理由は、連盟政府の横暴にまたレアを始めとした商人たちが反発した末に拒否した、だけとは思えない。
商会は今回の一件でキューディラの可能性について完全に気がついたはずだ。
掲示板は、その信憑性はともかくメディアが伝える速度よりもおそらく早い。そして、今のところ地域による制限を設けたという話は聞いたことがないので、際限なく情報を広められる。
おそらく、宣言が広まったことをきっかけに連盟政府も北公もその利用方法に気がついたのは間違いない。
現時点での管理者たる商会としては、今回を前例にして制度化されて今後やりづらくされないようにしたいのだろう。
掲示板機能が作られたときは、まだ人間の国家は連盟政府の一つだけの時代で他国と言えば共和国だけであり、それも人間からすれば蛮族地域として国とは認めていなかった。
人間の国が分裂した結果情報が国家を越えるという事態は想定されておらず、情報の検閲システムのようなものがないのだ。
北公でも連盟政府でも、もちろんユニオンだろうと共和国だろうと、どこでも誰でも情報が見放題な状態なのだ。
掲示板機能はすなわちネットだ。しかも、抑制するシステムが全くない。今後どのように利用されるかを考えると末恐ろしい。
今でこそ、宣言を隠そうとする連盟政府に反抗するように広めることで盛り上がっているが、今後、それによって何が引き起こされるか。
だが、どうしようもない。管理者がノウハウを伝えようとしない限り、ありとあらゆる情報は常に垂れ流し続ける。
まさか、ダリダさんは最初から想定していたのではないだろうか。
連盟政府へのささやかな抵抗なのではないだろうか。




