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スプートニクの帰路 第八十七話

 トラックの行き交う坂道を下り、俺たちはさらに進んだ。

 温泉もあるせいで全体的に温泉地のような臭いもある。湖に近づくと、臭いは濃くなり硫黄そのもののような臭いに始めた。


「この辺りはたまに霧は出るが、雨が降らねぇ。臭ぇ毒ガスが溜まらないのに霧が出るってのは不思議なところだよな」


 ところどころに何もない岩肌が露出しているところがあった。そこにも人はいるのだが、一様に防護服とマスクをつけて何かを回収していた。

 そこは硫化水素が溜まるスポットらしい。毒性が強すぎて植物が一切生えないので、移動の際にはそれを目印にするらしい。

 最近は、北公火薬を作る過程で必要になる硫酸の確保の為にそういったところに硫化水素の回収施設も作っているそうだ。


 ビラ・ホラを温めている源泉は、極地の空気を暖めてしまえるほどなので、かなりの高温だそうだ。

 湖の中心部にある熱湯が噴き出している辺りから絶えず湯気がもうもうと立ち上っている。

 だが、流れ出る量も多いのか、そこから離れると温度は下がっていくようだ。


 湖に近づいてみると、巨大な木賊(とくさ)が林のように生えており、風にその長い身体を任せて揺らしていた。いつか俺たちを運んだトンボよりも遙かに大きな個体が数匹そこにいた。

 トンボたちは木賊の先に止まり、手や足、玉虫色の眼球を舐めて満足そうにしている。

 まるで自分達が小さくなってしまったかのように錯覚して驚いていたが、ベルカとストレルカは構わずに歩み続けて進んでいった。


 湖の畔を歩くと次第に草木が生い茂ってきた。二人は獣道のようなところを進んでいくと立ち止まった。そこには湖から出る小さな支流があった。

 足を開けば無理せずに渡れてしまいそうなどの小ささだ。俺たちが二人に追いつくと、それを下り始めた。

 しばらく進んでいくと小川ほどに広くなった。整備はされているが綺麗に並べられている白い石の角は丸く磨かれ、滑らかな表面にさえ苔が生え茂っているので、遙か昔まだ街だった頃に作られたもののようだ。

 ころころと玉を打つような音を立てて流れる小川に沿って歩くと、やがて小川は小さな池に注ぎ込んでいた。

 周りには白い石造りで苔むした廃屋が何軒から並んでいる。そのうち一つは埃や苔がなくなり、布やら衝立やらが置かれ、消えたばかりでまだ暖かさえありそうな焚火の痕跡もあるなど人が頻繁に出入りしている気配があった。


 そこが二人のサボりスポットらしい。

 ここは開発が後回しにされて、人が滅多に来ないのでサボるにはもってこいだそうだ。


 ベルカが廃屋の中へと入っていくと、折りたたまれた木の椅子とパラソルを持ち出してきた。

 椅子は開かれると背もたれが長いデッキチェアになった。自作なのか素材はボロボロだが、しっかりと作られている。

 大きなトリコロールのパラソルは、昔サント・プラントンのカフェが閉店するときに道ばたに投棄されたものをくすねてきたものだそうだ。


 少しばかり硫黄の臭いもするが、環境も悪くないのでここで休憩させて貰うことにした。

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