スプートニクの帰路 第八十六話
ビラ・ホラのどこかには、ベルカとストレルカが見つけたおサボりスポットがあるらしい。
今のところ開発の手はまだ伸びていないのでひとけもなく、コソコソ話をするにはもってこいだそうだ。そこへ行くことにした。
ビラ・ホラは不思議なところだ。見渡す限り砂漠の極地に、忽然と平坦な頂上をした大きな山が出現し、その一部が切り崩れている。
そこまではポータル越しや遠巻きによく見えていた。
二人と共に改めて近づいてみると山はとても大きく、その切り崩しも谷のようになっていた。
谷筋は遠くでみるよりも広く、通り道があった。舗装もされていて、汽車の形を応用したようなやたらと大きなトラックが走り回っていた。
斜面は切土され、法面は固められ、往来がしやすいように工事がされていた。
幅広くとられた道路の横には、並行するように更地が続いている。将来そこに鉄道を通す予定もあるのだろう。
背後から突然低い振動音が聞こえたので振り返ると、大きな影を落としてあのトンボが頭の上を飛んでいった。
前方に見えていた稼働していない大きなクレーンの先端に止まりフックをゆらゆらと揺らしたが、誰もそれを気にせずに作業を続けている。ここはあのトンボの通り道でもあるようだ。
セシリアは歩みを止めると、懐かしい友達に再会したような顔をしてそれを目で追っていた。
ベルカとストレルカに連れられ、姿を見られないように変装しながらその谷筋を通り抜けた。
顔に吹き付ける風が冷たくないことに違和感を覚えながらも曲がりくねっていた谷筋を進んでいくと、遙か先に光が見えてきた。いよいよビラ・ホラの遺跡へ到達のようだ。
近づくにつれて眩しくなり、白く見えなかった光景に目が慣れると次第に景色が見え始めた。
そこには不思議な世界が広がっていたのだ。
入り口となっている谷筋は緩やかに上り坂だったのか、眼下にすり鉢状の大きな盆地があった。真ん中には大きな湖があり、それを囲うように建物群が点在している。
コケや耐寒性の強い植物が生い茂り、極地とは思えないほどに青々としていた。白い建物は日光を照り返し輝くと、その緑の大地を生き生きと映し出している。
建物の近くでは小さな黒い点が動いているのはそこで働く人たちだ。
湖の周りで何かが飛んでいる。点と点を素早く結ぶような動きを見せるそれは、あのトンボたちだ。大きな彼らでさえ小さく見えるというのは、ビラ・ホラはどれほど大きな街なのだろうか。
カルデラの中に出来た街なのだろう。地熱で温められているので過ごしやすくなっているのだ。




