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スプートニクの帰路 第八十五話

「お前らを信じてないわけじゃない。だが、お前ら国家に所属する人間からすれば、俺は元女王の誘拐犯とかいう不敬の塊だ。油断させておいて実は、ってこともある」


 顎先を動かしながら杖先を小さく二、三度振って指図した。しかし、二人は武器に触ることは無く、顔を見合わせて肩を上げた。


「イズミよォ、お前もいよいよ修羅の道に足を突っ込んできた人間らしくなってなってきちまったなぁ。

 無防備にドアを開けちまう雪山の頃たぁ見違えるぜ。平和ボケしてたお前さんが恋しいぜ」


 ベルカは片口角を上げて笑った。


「構えないのか?」


「出来ねぇよ。オレたちは国に属する人間だからな。オレは軍人」と胸を叩いた。


「アタシに至っちゃ、お役人さまだぜ? へっへー。サラリーがあるってのは、元浮浪者にゃ贅沢な感じだぜ」


 ストレルカは親指を自身の胸の辺りに突き立て、口角を上げて自慢げな顔になった。


「暴れちまったら捕まって記録に残る前科(ハク)がもう付いちまう。立場もあるから全体に響く。

 それに北公とルスラニアの地域ならまだしも、国外で暴れて捕まったら大問題だぜ」


「ベルカも役人になれたのにな。こいつバカで、オレは椅子に座ってられる性じゃねぇ、とかいって軍人になッてんだぜ?」


 ストレルカがベルカの背中を軽く叩いた。


「うるせぇな。オレは一時間以上座ってるとケツの穴が痒くなってきちまうんだよ。

 まぁ、そういうワケだ。オレたちは役人と軍人としてお前らの監視と元女王様の護衛を任されてる」


「護衛は分かる。だが、監視? 誘拐犯の逮捕じゃないのか?」


「ちげーよ。こうして顔突き合わせちまったんだ。伝えといてやるよ」


 近づこうとして再び足が動き出したので、俺は持ち上げていた杖先で狙うように向けた。

 ベルカとストレルカはつま先で砂を蹴って再び止まると、困ったように顔を見合わせた。


「それでも信用ならねェか。

 ほいじゃァまァ、ここは一つ、敬礼でも見せてやろうぜ。立派で偉大な我らルスラニア王国の誇りってヤツをよォ」


 ストレルカが反応して足を揃えて背筋をピンと伸ばした。その横でベルカは片眉を上げ、戸惑ったような顔をしている。


「ああーっと……、ルスラニア近衛軍の敬礼ってどんなだったか? 背筋伸ばして額に手を当てれば良いのか?」


 ベルカは一度足を開き、玩具の兵隊のようなぎこちない動きで足を揃え、背筋を伸ばした。そして、額に掌をぺたりとくっつけた。宇宙と交信でもしているかのような仕草で、滑稽だった。


「違うね。北公のやり方だよ。軍の慣例は昔のが分かンねェから北公に習うんだろ?」


 ストレルカが姿勢を一度崩してそう言った。しかし、ベルカは両掌を上に向けると「それがわからねぇぞ」と言ったのだ。


「……おいマジかい」とベルカの返事と仕草を見たストレルカは絶句した。


「アンタ、大丈夫かい? それでルスラニア近衛軍の将軍が務まンのかよ? こう、だよ、こ・う!」


 渋い顔で北公のやり方で敬礼をして手本を見せた。

 それをベルカはへっへと笑いながら見ている。そして、「しゃっ!」と気合いを入れると顔の筋肉を強ばらせて、「ルスラニア王国近衛軍大将ベルカ・コズロフで、あーる!」とどこか北公のお堅い軍人のような挨拶と共に敬礼をした。


 驚いたことにベルカは軍隊の大将になったようだ。名前も……。どれほど偉くなっても変わらないいつもの二人組のやりとりに俺はすっかり気が抜けてしまった。


「わかったよ」


「お前、なんだよ! 馬鹿にしたみたいに笑いやがって!」


 ベルカは怒鳴った。どうやら俺は笑っていたらしい。

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