スプートニクの帰路 第八十四話
自分たちの境遇に酔ってセシリアをふらふらと街中を連れ回して各地でデマの原因を作っているだけ――ではない。当たり前だが対策を取っている。
「その点は安心しろ。俺はルスラニアの建国を傍で見てきたし口出しもしたんだ。一応、名付け親でもあるんだぞ。自分の手で壊すようなことはしたくない。
確かに話しかけてきたブルゼイ族はちょこちょこいたが、ビラ・ホラへの道は開かれ、その道を守るブルゼイ族の国ルスラニア王国が出来た、ノルデンヴィズに行けば全てがわかるって伝えてるからな。
すぐにでも行きたいヤツらはこっそり移動魔法で送ったりもしてたぞ。
それにほとんど一緒に行動してたんだから、連盟政府内に行ってないのは知ってるだろ」
ブルゼイ族はセシリアというルスラン直系の血統の容姿にはすぐに気づく。さらに彼らは必ず話しかけてくるのだ。
王族に対して絶対の敬意があるのか、ひれ伏すように話しかけてくる。どれほど時間が絶とうとも忘れないのは遺伝子に刻まれているのではないだろうかと思うほどだ。
セシリアはそうされるとこれまでのように隠れてしまう、ことはなくなったのだ。
一度でも王座に就いたことで身につけた威厳を持って彼らに語りかける。真のブルゼイ族であるならルスラニア王国に行けと彼女自身が言うのだ。
そして、俺かアニエスが恭しくポータルを開き――、と言う顛末で、セシリアを目撃したブルゼイ族はほとんど北公に送り届けているのだ。
ルスラニア王国では王であることを放棄して脱走しておきながら、国外ではその権力を振るっているというのは何とも矛盾している。
しかし、そうするのが最適解であると思っていたし、二人の様子から察するに間違ってはいないようだ。
「さっすが、わかってるねェ」とストレルカが口をならした。
「しかし、最近また人口がちょっと増えてたのはお前のせいか。身辺調査する身にもなれや。まぁだが、別に悪ぃことじゃねえからいいんだが。何なら連盟政府内部にいる同胞にもそう言ってくれるとありがたい」
「入れるワケない。諦めろ」
俺がそう答えると、ベルカは、ちげぇねぇな、と両掌を天に向け、それがやめておいた方が良いというのはをどこか分かっているような仕草を見せた。
こっそりなら移動魔法でいくらでも入れる。だが、そこで話しかけてきたブルゼイ族は果たして連盟政府から矯正やスパイ教育を施されていないと言い切れるだろうか。
差別的な言い方ではあるが、操られた末に何か暴力的・破壊的な行動をする可能性が高いのだ。
ブルゼイ族だからと言う理由で無警戒に送るのは、ユニオン、友学連、共和国、どこであってもその手の輩をシーヴェルニ・ソージヴァルに送り込んでしまうリスクを孕んでいるが、北公と目下的対中である連盟政府からというのは他の国家とは比較にならないほどにリスクが高いのだ。
「ま、何にせよ、こうして接近したんだ。お前ら北公がどうなってるかとか何も知らないだろ? お前もなんか用事あるみてぇだし、とりあえず話を……」と言うと二人は右足を前に出した。
「おっと、待て。近づくな」
俺は腰を落として杖の柄に手をかけ「武器を置いてからこっちに来い」と警告をした。




