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スプートニクの帰路 第八十一話

 ポータルを抜けると、見覚えのある白い砂漠と赤茶けた金属塊――破砕機があった。


 塩っ気のある砂漠の風は鉄を喰らう。俺の左腕を喰った破砕機は赤茶色に錆びて、所々早くも崩れ始めている。

 よくもやってくれたな、早く砂と時間に喰われて消えてしまえ、と思いつつも、人質を放り込んで殺害しようとしたシバサキを止める為に破壊されて二度と動かぬようにされ、持ち主であるはずの共和国にも放棄されたその姿には哀愁が漂っている。

 正しく使われることなくとも道具に罪はないはずだ。人知れず朽ちていくそれには、図らずも同情した。


 空は晴れていて真っ青とまではいかないが、透き通るような色だった。

 風は吹いていない。海の近い砂漠なので時間によっては海風に運ばれた砂が舞って鬱陶しいので、凪の時間帯を選んだのだ。

 気温はあのときとほとんど変わっていない。やはり極地に早雪はなく、春も訪れないのだろう。


 風が無いと砂漠は完全に無音の世界になる。あるのは自分たちの足音だけだ。寒い世界でも日が差せば陽炎が踊る。その足音も陽炎に飲み込まれていきそうだ。


 俺たちがポータルを通り抜けてちょうど閉じたとき、遅れて離れたところに別のポータルが開いた。

 これまで追跡者がいるというのは分かっていたし、ストスリアに訪れていた頃には彼らの隠れる素振りもかなりいい加減になっていた。

 これまで邪魔をしてくることはなかった。何もしてこないなら視界に入ったとしても無視を決め込んでいたし、相手も自分たちが視界に入っていることなど知っていて申し訳程度に隠れている素振りをしていたので、お互いに関わらないようにはしていた。


 しかし、ここは砂漠だ。これまでのように市街地や森などとは違い遮蔽物が全く無い。砂丘は視界を遮るが、丘は大きく反対側は何も見えなくなってしまうので追跡対象から離れすぎることも出来ない。

 凪であれば舞い上がる砂も今はなく、どこまでも見通しが利く。

 彼らは曲がり形にも隠れておこうというのを諦めたのか、見えるところに堂々とポータルを開いていた。


「ちょっといいか」とアニエスとセシリアをその場に待たせて、俺はそちらに向かって歩いて行った。その尾行者に少しばかり用事があったからだ。


「おーい」と手を振りながら呼びかけると、追跡者の二人は振り向き、近づいてきた俺に驚いたふりをした。

 肩を上げるなどわざとらしい慌て方を一通りした後、ゆっくりとポータルを閉じながら「あーあ、ついに見つかっちまったか」と言った。


「お前らがずっと尾けてるのは知ってたぞ」


 言わずもがな、追跡者というのはベルカとストレルカだ。

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