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スプートニクの帰路 第八十話

 ビラ・ホラ。それはブルゼイ族の言葉で「白い山」を意味する。

 春風を知らぬ氷と凍った砂の世界である極地に存在する奇跡のハビタブルゾーン。硝石鉱床に由来する白い山と、ブルゼイ族のかつての都。


 この期に及んで俺たちがここに来るのは馬鹿なことかもしれない。

 かつて俺たちはここを目指して旅をした。何年もかけるような長い旅ではなかったが、様々な経験をした。

 不確かな情報に戸惑い、それぞれの思惑を持つ者たちとときには争い、ときには足並みを揃え、その中で皆それぞれに心と体に傷を負い、多くの物を失い、そして、多くの物を得た末に辿り着くことが出来た。


 主を失って以来何百年もの間、人の到来を拒み続けてきたはずのその幻の都は、流浪のブルゼイ王家末裔が密かに口伝していた歌によって開かれた。

 今や北公とルスラニアの軍人から民間人、研究者から何からで大賑わいだ。おそらくエルメンガルトもいるだろう。


 自分たちのあの旅路は一体何だったのか。押し寄せた騒がしさの中にその虚しさを全く見いださないかといえば、それは嘘である。

 ビラ・ホラが自分たちの物でもないないと分かっていても、そこにある“それまで”に土足で踏み込まれているような。


 いずれにせよ、俺には何かを言う資格がない。というのも、ビラ・ホラに辿り着いてはいないからである。正確には、その手前に来ただけに過ぎないのだから。


 最初に来たとき、つまり巨大なあのトンボに装甲車ごと運んでもらって訪れたとき、俺たちはその目前でシバサキとその直属の部隊である鶻鸇騎士団(ヴァンダーフェルケ・オーデン)とかいう寄せ集め騎士団と対峙して行く手を阻まれたため、ビラ・ホラの街の遺跡までは到達していない。


 その戦いの直後に起きた北公と商会による場所取り合戦の末に北公が治めたビラ・ホラへのポータルを開く仕事に俺は従事していた。

 だが、仕事はもっぱら北公軍人たちや物資輸送のためのポータルの定時開閉だけであり、ポータルをくぐってすらいない。


 やがて汽車が通るようになると、昼夜を問わないピストン輸送が行われるようになりポータルを開く機会も減っていった。


 ノルデンヴィズの基地や公使館にいたセシリアも、女王になってからは公務や勉強で閉じ込められていたに等しいので、ルスラニア王国女王でありながらビラ・ホラには到達していないのだ。


 最初に目指し始めた俺たち三人のうち、誰一人そこに足を踏み入れていないということになる。

 だからこそ、旅の終わりを自分たちに告げる為に向かうことにしたのだ。


 もちろん長居はしない。

 誰かに会うとか、何かを見つけるとか、そう言う予定は既に果たされている。ただ単に、辿り着いたと言う楔を心に打つだけという自己満足の為だ。

 何よりも、過酷な環境はセシリアには辛いはずだ。それに兵士たちもたくさんいるので、見つかるわけにもいかないのだ。

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