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スプートニクの帰路 第七十八話

 俺たちはまずラド・デル・マルのカルデロン別宅に向かった。

 ルカスやティルナといった要人たちには会わないように避けながら、ヒューリライネン夫妻と共にそこで温かい日々を過ごした。

 二人も突然現れた俺たちの行動について何かを悟ったのか、要人たちと接点を持たなくて済むように取り計らってくれたのだ。

 研究室に顔を出したところ、運良くグリューネバルトにはち合わせた。セシリアに挨拶をさせると素っ気ない返事を鼻でされたが、帰り際にお小遣い(というには多すぎる額)をくれた。

 俺たちは流行の服を買うことにした。

 セシリアにはショウウィンドウの前で欲しがった小さなワンピース型のセーラー服、アニエスにはローウェストのドレスにクローシュ、俺はどうでもよかったのだが、アニエスに押しきられてグレート○ャツビーに出てきそうな服を買った。

 そして、彼方此方を見て回った。

 いつかセシリアが見たがっていた船も桟橋の先まで行きすぐ傍で見せて上げた。近くで見るとやはりとても大きかった。

 昔タンカーを見て思っていたよくこんな鉄の塊を浮かべるもんだと改めて思った。セシリアは少し怖かったのか、船首の真下まで来ると首を真上に向けた後に後ろに隠れてしまった。


 線路沿いに行き汽車を見せたとき、こぼれた魔石拾いに来ていた同年代ぐらいの子どもたちにも会った。

 不思議な者を見るような目で彼らはセシリアを見ていたし、彼女も同じように彼らを見ていた。

 呼び鈴が鳴ると彼らは学校に向かって走って行いった。セシリアは様子を少し羨ましそうに視線で追いかけていた。

 学校は――厳しいかな。


 翌日にはその汽車にも乗った。

 ラド・デル・マル発のモンタルバン行きの豪華な旅客車だ。しかし、どこかへ向かう為ではなく、乗る為だけだ。

 コンパートメントの窓から帽子を押さえながら身を乗り出して風を受けるセシリアを抑え込むのに俺たちは必死になった。

 駆け抜けていく景色から彼女を引き剥がして席に座らせた車内販売のヘルベルト製菓の飴玉は偉大だと思った。


 ユニオンで何日か過ごしヒューリライネン夫妻と別れた後、俺たちはカルモナへと向かった。

 海沿いの宿は八階建てや十階建などと高層建築とまではいかないものの、背が伸びていた。

 どうせなら商会のあの超高級宿に泊まりたいが、友学連はユニオンの属国であり商会は立ち入れないなどややこしくなっていて、あの宿がどうなっているか分からなかった。

 近づくのも怖いのでそこに宿泊するのはやめたが、ユニオンの勲章をちらつかせて贅沢なホテルに泊まることが出来た。

 そして、運良くあの『カルモナの奇跡』とも重なったので、夜に海へと向かった。セシリアは強烈な磯の匂いに鼻を摘まんで顔をしかめていたが、音を立てて崩れる波が青く光るのを見て驚いていた。


 ストスリアに行ったとき、いつも食事をしていたあのカフェに行った。区画整理と道路の拡張の影響を受けずに、ひっそりと、それでいてしっかりとあの頃の味を守り続けていた。

 フェンスと有刺鉄線が巻かれたストスリアの飛行場もフェンス越しに覗き、時折する飛行機の離発着を眺めた。(オージーとアンネリに会ったあの広大な練習場の一部が滑走路になっていたのだ)。


 かつての国境の街リティーロにも立ち寄った。橋の前に並んでいた不気味な黒い魔術防御壁が撤去され、橋も解放されて当たり前に往来が行われていた。

 時代に取り残されて寂れていた街の面影はなくなり、人とエルフの流れが生まれて活気づいていたのだ。

 やがてそこまで鉄道が延伸し、ゆくゆくは共和国のグラントルアまで繋がるという看板も立てられていた。

 予定地は更地にされ、もう駅が作られ始め、そして、共和国へとつながる橋に汽車の重さに耐えられるような補強工事がされていることには驚いた。

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