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スプートニクの帰路 第七十一話

「お前ら、セシリアを孤独にしたくないんだな?」


「当たり前だ!」


「じゃオレの独り言をよく聞いとけ」


 そう言うとベルカは窓の方へと向かっていった。そして、徐に顔を乗り出して左右を見回し、ゆっくりと窓を閉じた。外界から完全に隔てられると、すっかり暗くなった夜の街のざわめきを窓枠が吸い込むように消した。

 背中を向けたまま窓枠に手を突くと、低い声で何か言い始めた。ぼそぼそとしていたが、妙にはっきりと聞こえた。


「公の場に姿を現す最後の式典は来週明けに催されるが、終わってすぐに引っ越しにはならない。

 極秘の引っ越しだから人数は限られているが、準備の時間はほとんどない。だから、いきなりというのは不可能だから数日間の猶予がある。

 オレはプリャマーフカの護衛部隊の隊長だ。見張りの交代のシフトは全部把握してる。

 来週その引っ越しだとかでオレはちょこちょこ護衛に付かなきゃいけないんだ。

 特に、来週半ば辺りに重要な会議があって、偉いのはほとんどがそっちに行く。ストレルカはそっちに行くから護衛はオレだけになる。

 ありがたいことに実力を買われて、それにセシリアとも顔見知りだって理由で一人で任されてる。オレはネズミ一匹通すつもりはねぇし、その自信もある。


 残念だが、会議はいつどこで開かれるのは非公開だ。オレも知らない。

 だが、簡単に知る方法がある。ストレルカはいちいち着替えるのを面倒くさがる。会議があれば一日軍服で過ごす癖がある。

 朝方にストレルカが軍服でなくて制服を着ていたら、その日が会議なのは間違いねぇ。

 だが、制服着るってだけじゃあ、見分けが付かねぇかもなぁ。

 そのときは制服のラペルを見ろ。例のブローチを付けてるはずだ。あのチョウトンボのブローチだ。

 ルスラニア王国の上層部として参加する。要するに格調高い会議なんだとよ。


 ノルデンヴィズ基地内の暫定ルスラニア公使館の三階、手前から三番目、ドア両脇に椅子のある部屋の警備は手薄になるかもしれない。

 その日の夜七時きっかりにオレはきっと腹壊して、3分、いや、2分くらい、下痢で階下の便所にでも行くかもしれねぇなんて誰にも言えたもんじゃねぇな」


「そんなことしたら、お前が!」


 ベルカは「あ?」と言うと振り返った。呆けた顔をして小指を耳に突っ込み、ぐりぐり回している。


 壁により掛かると「何の話だ? 今オレぁなんか言ったか? 最近疲れてんのか独り言多いんだよ」と小指の先を見つめた。


 さて、と壁から立ち上がり、かけてあった上着を羽織り始めた。

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