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スプートニクの帰路 第七十話

「ああ、そうだ。客寄せパンダはもう充分だ!

 ブルゼイ族は集まった。そして、物質的な支えはまだ必要でも、心の支えがもう必要がないほどには立ち上がれてるんだ。

 今後、あのガキは神聖視されるようになる。だから、表に出てこなくなる。それはパンダとしてはもう充分だってことだろ。

 もうゼロを超えるための希望が必要な段階じゃなくて、一を増やしていく現実的な目標が必要なんだ。

 だが、同時に誘拐されて利用される危険性だけを持つ存在であるってことだ。後は、たったその程度だけの理由で守らなければいけないって全てからも遠ざけられる。

 権力も立場も無いのに象徴だけではあるから守らなきゃいけない存在なんてのは世間から引き離すのが一番だ。


 週明けにある次の式典への出席を最後に、何処にあるか分からない王宮に引っ越しになる。オレたちもいよいよ場所の把握が出来なくなる。そうなるともう完全に繋がりが断たれることになる。

 公務も名前だけの出席ってことになる。ヒトが攻撃的になった今の時代、人前に出た瞬間こそ狙われるからな。

 それから先、あの子はもう永久に孤独になると思え。


 世界からも人間からも引き離されて、閉じ込められて何処に行くことも出来ずに孤独に生きていく。

 そして、神聖視された挙げ句、世話をしているだけの冷たい数人以外の誰にも知られずに孤独に死んでいくんだ。

 お前はそれを可哀想だとは思わねぇのか?」


「国の為に存在した者にそんな酷い仕打ちはしないだろ!? それにあの子は進んで希望になるって言ったんだ。そんな仕打ちはされていいわけがない!」


「その国が大事だから余計に孤独に追いやるんだよ! そんなこともわかんねーのか、このスカポンタン! 酒ばっか飲んで頭ン中まで腐ったのかよ!」


「ベルカさん、それはいくらなんでも言い過ぎです。二人とも一度落ち着いて」


 アニエスが俺を庇おうと立ち上がり、ベルカと俺の顔を交互に見た後に手を伸ばしてきた。しかし、ベルカは振り払うような仕草を見せて止まることはなかった。


「オレは国が出来ればそれでいいと思ってた。実際に恩恵を受けてきた。

 だがなぁ、ガキ一人泣かせて国を成り立たせるなんざ、許せねぇよ。ガキが犠牲になって出来た国なんざまともじゃねぇ。

 ブルゼイ族の王だろうが何だろうが、ガキはガキだ。オレたち孤児みたいにならなくて済むのなら、受け容れてくれる親がいる幸せをもっと味わっていいはずだ!

 それでもお前はあのガキを国の為とか言って孤独に閉じ込めるのか? んなことするなら、ブルゼイ族だとか関係無しにオレはお前を許さねぇぞ!」


「簡単に言うんじゃねぇよ! じゃお前は出来るのかよ!」


「オレがしてどうすんだよ! 誘拐して麻袋詰め込んでお前に届けろってのか!?

 ざけんなよクソ野郎! こんなクソみたいな話聞かされちまったオレはお前と立場を入れ替わりてぇくらいだ!

 入れ替わってオレは会いに行くぞ! だがなぁオレじゃお前の代わりは務まらねぇんだよ!」


「俺たちだってもうセシリアの近辺には近づけないんだぞ!? どうしろって言うんだよ! 何なら、会わせろよ!」


 強くそう言い返すと、ベルカは突然無表情になると肩を下ろして不気味に静まりかえった。

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