スプートニクの帰路 第六十九話
「悪いがオレたちもいつまでも馬鹿じゃねぇ。国家てのは、出来ちまったら簡単には潰れねぇってこともよく知ったぜ?
ルスラニアはもう国として後戻りできないほどには成立した。北公の支援がスゲぇ入ってな。
ブルゼイ族の国家として独立たぁ言ってるが、もうほとんど北公みたいなもんだ。だが、それはかまわねぇ」
「だから、それはそれで女王が不在になったら北公に取り込まれてルスラニア王国は完全に跡形もなく潰れるって言ってんだよ! またブルゼイ族は誰かのエゴで国を潰す気なのか!?」
「ああ、わかったよ。お前がオレたちブルゼイ族を心配してんのはよくわかった。だが、冷静に考えろ」
「俺は冷静に考えてる! ルスラニア王国を潰すわけにはいかない! 貧困層が増えればまたどこかで争いが起きる!」
「落ち着けよ。北公はルスラニア王国作って何を手に入れた?
硝石を手に入れただろ。人間にとっては新しい戦争を継続する為に喉から手が出るほど欲しかったそれをな。
あいつらがそれを簡単に手放すわけがねぇ。混乱が起きたら吸収すれば早い話かもしれない。
だが、もう取り込むことはいまさら出来ねぇよ。傀儡国家だと揶揄されながらも独立国として認めて支援したのに、できあがった直後にやっぱりダメだったから支配下に置くなんて、積極的な支援を世界規模で公言した北公のカッコがつかねぇだろ。
カッコつけてよぉ、北部辺境社会共同体なんてモン作ったが、審査して加盟させた国がダメでした、なんざ恥の上塗りだろ。そんなガバガバな共同体に、後から入りたいなんて言う奴が今後出てくると思うか?
世界は殺し合いに向かって進んでる。そんなのでさえ隙になる。
攻められるだけならいいが、そこに他所のデカい国がブルゼイ族支援に名乗りを上げたらどうする? 北公まで逆に乗っ取られちまうかもしれねぇだろうが!
むしろそれを狙ってるかもしれないってのは誰でも分かってんだよ。現にオレはストレルカからそう言うきな臭い報告を何度も受けてる」
「だったら余計に内部に不安を持ち込むわけにいかないだろうが!」
「内部の不安だ!? ブルゼイ族ナメんなよ。そんなもん、今やもうお姫様がいるとかいないとかじゃねぇ。
最初こそ、女王を希望に据えて中心に集まったが、ルスラニアはもうその段階じゃねぇんだ。
カルル閣下が戸籍と仕事と住む場所を与えるって言う機会を与えて、ブルゼイ族を一カ所に集めた。
そこにブルゼイ王族の正統なる末裔が登場したら、ブルゼイ族が国を欲しがるのは当然だろう。といよりも国が出来ると思うだろう。
それがどんなにオレたちには温かく心強かったか、根無し草の放蕩クソ野郎にゃわかりもしないだろうな。
そして傀儡と言われようとも籍、職、食がきっちり保証される国が出来た今、その温かく迎えてくれる日だまりを守ろうと必死になってるだろう!
ブルゼイ族が最も恐れてるのは離散と貧困の再来だ。女王の不在じゃない。明日食う飯がなくなる状況がまた来るかもしれないってことだけだ!
人間てのは一度幸福を味わっちまうと、それを手放すことは出来ねぇんだよ!
だから、何があろうとも得られた権利をホイホイ簡単に手放すヤツは一人もいねぇ。北公もあの手この手でルスラニアを維持するだろうな。
どいつもこいつも、手に入れたものを自分の為に未来の為に維持しようと必死になるに決まってる。オレたちブルゼイ族も食い扶持のために北公に進んで協力するだろうな。
もうルスラニア王国は潰れねぇし潰さねぇ! オレたち自身で守るんだよ! 女王がいなくなったとしてもな!」
「なんだよ、その言い方! セシリアは必要ないってことか?」




