スプートニクの帰路 第六十八話
しばらくそうしていたかと思うと突然、フォークを持ったままテーブルに思い切り両手をたたき付けたのだ。
皿の上で食器が跳ね上がり、高く硬い音がした。立て付けの悪いテーブルは大きく揺れて、コップから跳ねた水が手の甲に付くと冷たくなった。しかし、それはすぐに乾いて消えた。
ベルカはフォークを投げ捨てて勢いよく立ち上がると、目の前まで迫ってきた。「おい、テメェ。それでも会わねえってのか?」と俺の胸ぐらを掴み上げた。
「ふざけんなよ? そう頑固になってればいいさ。とんだ子不幸モンだぜ」
「セシリアはもう女王だ。俺たちの子どもじゃない。お前らだってあの子がいるから国家の一員になれたんだろ? それを俺のエゴで潰すわけにはいかない」
「悪いがオレは耐えられねぇ」と掴んでいた胸ぐらを放して椅子に投げ捨てると背中を向けた。
「あのガキはなぁ、顔を見る度にオレたちになんて言うか、具体的に教えてやるよ。
最初の時みたいに袋に詰め込んでも良いから、ここから出してくれって、お前らにすぐ会わせてくれるなら何でもするし何してもいいってな。
そこまで必死になってるんだぞ? お前はそれでもガキを無視するのか?」
身体をこちらに向けて両手を開き必死に訴えてきた。先ほどの怒りの表情は消えている。
出してくれと懇願される二人がどれほど辛いか。そして、それを言うセシリアはその何倍辛いのだろうか。考えるだけで苦しくなるような気がした。
口の中に乗っている僅かなドラニキがまるで砂利でも食べているかのように味がなくなり、ただの不快感だけになった。口を拭うと俺は言い返した。
「でも、あの子がいなきゃ国は成り立たないじゃないか! 一回会えば何とかなるわけじゃないし、何度も気軽に会えるわけじゃない! 俺たちに誘拐でもしろってのか!?
俺たちはそれで満足かもしれない。移動魔法もあるからどこだろうがまた逃げ回れる。
だけどな、そんなことしたらお前らまた昔に後戻りだぞ!?」
「やれんならさっさとやれや! やったところでそんなこと起こりえねぇんだよ!」
「なんでだよ! 起こらない理由を言ってみろよ。
ルスラニア王国はできあがったばかりでまだ世界に向けて存在を発信したばかりじゃないか。
そんな状態で女王が突然いなくなったら、混乱にかこつけて攻め込まれて元々なかったことにされるか、簡単に、しかも自らの手ですぐに潰すに決まってる!」
立ち上がり言い返すと、ベルカははっはと吐き捨てるように鼻を鳴らした。




