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スプートニクの帰路 第六十六話

 俺もアニエスも食べる手が止まってしまった。

 ベルカはサワークリームで全体的に真っ白になり、今にもぼったりとしたたり落ちそうなドラニキを、重い滴が落ちるよりも速く口の中にまるごと頬張った。


 アニエスがナイフとフォークを置くときの陶器を擦る音が響いた。窓から風が吹き込むとまだ冬の名残のある冷たい風が吹き込み、頬を撫でた。

 夕暮れでまだ赤かったはずの街並みは濃紺に落ち、部屋の明るさに慣れた目には不規則に並ぶ四角いオレンジの街の照明だけが見えた。


 ベルカはしばらくむぐむぐ口を動かして飲み込んだ後、「パパママに、お前らに会わせろと泣いている。毎日な」と続けた。


「オレもストレルカも、あいつの護衛つれぇんだよな。泣いてばかりいられると気が滅入るんだよ。

 それに中途半端に顔見知りなモンだから、パパママに会わせろってふらふらになりながら泣きついてくるんだよな。

 昔したことを考えりゃ、今懐いてくれてるのはありがたいんだが、正直やってられないぜ」


 ベルカは皿の上のドラニキにフォークを突き立てると、さくりと音を立てた。刺さったそれを持ち上げると俺の方へ向けて小首をかしげた。

 顔に表情はない。何かを引き出そうとしているように止まったが、俺が窓の外に視線を逃がしていることに気がついて、ため息を溢した。


 そして、「これはオレからの頼みなんだがなぁ、その、まぁ、何だ」と珍しく言葉を詰まらせた。

 息を吸い込んだ後に一度止まると「あいつに会ってやっちゃくれねぇか?」と言ったのだ。


 街の基地から離れたこの家にわざわざ遠回りしてまで来たのは、どうやらこれが本題のようだ。


「そうもいかない。今や彼女は女王だ。俺が何をしたといえども、天と地ほどの距離が出来た」


 ベルカはフォークでドラニキをつつくような仕草を見せると「女王が何だよなぁ。お前は会いたくないのか?」と尋ねてきた。


「会いたいさ。でも、彼女が進んで女王になったんだ。親に会えないことぐらい覚悟してるはずだ」


 ベルカは「覚悟なぁ……」とドラニキにフォークを突き立てたまま皿の上に置くと、背もたれに寄りかかり両手を頭の後ろで繋ぎ頭を乗せた。


「出てったとき、ありゃ、ただのやぶれかぶれの勢いでつい言っちまったんだろうけどなぁ」とブツブツとつぶやいた後、思いをはせるように天井を見ながら足で椅子を後ろに傾けてゆらゆら揺らし始めた。

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