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北の留鳥は信天翁と共に 最終話

 日々はめまぐるしく移り変わる。


 北部辺境(シーヴェルニ)社会共同体(・ソージヴァル)はユニオンと接触を持ったことで近代化が爆発的に進んだ。

 もとより高かった錬金術師たちの技術力との相性は抜群に良いのでその速さは恐ろしく加速し、まるでこのたったの数ヶ月で三十年ほど時代が進んだようにも感じ、なおも指数関数的に進歩しているように見える。


 その中で活躍したのは錬金術師だ。その錬金術師という名称も時代遅れだと言われて変わり、魔術工学者と呼ばれるようになった。

(細分化されたのは他も同様で、例えば、ただ治すだけならば僧侶とそのままだが、治癒魔法が使えてさらに解剖や病理など人体に精通した者は生体魔術学者となった。魔法使いはただ魔法が使える人というだけになった)。

 魔術工学者はかつての錬金術師のようにワーキングプアではなく、他の職種などとは比べものにならないほどの高給取りになっていた。


 オージーとアンネリの論文も、著者がスヴェンニーであるおかげで常識のように周知されていたことで錬金術と魔法の垣根は低くなった。

 これまでのように魔法はただ強く使えればいいだけで要職に就けるとはいかなくなり、魔石を使おうと天然で使えようと、魔法を具体的にどのように扱えるかが重要視される時代が訪れていた。

(あの論文の著者として四番目に俺の名前も載っているので、何やら難しい話をしかけてくる魔術工学者もいて俺は泡を食ったことが何回かある。そして、カミュの名前には横線が引かれている)。


 俺とアニエスは固有にして希有な移動魔法があり、それに甘んじているところはある。

 だが、いずれ自分たちも時代遅れになってしまうのではないだろうかと恐れを抱いていた。かつて魔法が最大限奇跡であったが現在のようにその移動魔法が廃れる日が、俺たちの想像も出来ないような形で訪れるのではないか。


 そうしていくうちに、セシリアのことを思い出す時間が明らかに減っていた。


 忙しさの中に身を投じて忘れようとしていた。だが、消えてしまいそうになる度に無意識はその記憶の糸をたぐり寄せ、忘れまいと呼び起こしてしまうのだ。

 そのたびに彼女には女王としての立場があり、その方が豊かであると言い聞かせていた。そして、忘れようとして再び、の繰り返しだった。

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