北の留鳥は信天翁と共に 第三十話
ブルゼイ族は硝石や鉄道関連、その他の様々な事業により雇用の問題は解決された。そして、いよいよ国家が作られる――史実的には逆で記録されているが――ことになったのだ。
国家の名前をどうするかという会議が開かれた。カルルさんは俺とアニエスもそれに参加させた。
参加をしたくはなかったが、旧知とは言え今や北公の総統であるカルルさんの命令を断るわけにもいかなかった。
会議室に向かうと思った通り、いつまでめのとヅラするつもりだと一部の幹部から冷たい言葉を浴びせられた。
元貴族ではない一般人の俺がここに出入りすること。カルルさんに直訴できる立場であること。民衆の支持を集めたわけでもなく、立場がないが故にかえって潰しづらいこと。セシリアの元保護者と言うだけでここにいること。
思いつく限りで気に食わないことがそれだけであっても、俺の存在から何からその全てが気に入らないのだろう。
面倒だなと思っていると、カルルさんが睨みを利かせて黙らせてくれた。
候補として上がったのが、第二ブルゼリア、統一ブルゼリア、ブルゼリア王統政府。
しかし、ブルゼリアの過去の歴史を鑑みて、ブルゼイという民族名を使うのは控えた方が良いとなった。
俺はセシリア王国と会議で提案してみたが、言ってからファンシー過ぎることに気がついた。先ほどの幹部からはここぞとばかりに白い目を向けられた。
ブルゼイ族、スヴェンニー共に一番最初の分け隔てなかった時代の民族開祖であるルスラン・ブルゼイの名前を使うことになった。
再び考えられ候補として上がったのは、統一ルスラニア、正統ルスラニアだった。
しかし、俺はその『統一』や『正統』と言う言葉があまり気に入らなかった。
有名なSF物語に出てくる紅茶にブランデーを入れて飲むとある指揮官がかつて言っていたように、「統一」とか「正統」とか「しんせい(神聖・真性)」といった名前のつく政府は長生きしないと思うのだ。
ただ何となくイントネーションでそんな感じがするからではない。
統一は国名に使う単語で統一感を出さなければいけないほどに国内に分離不安を残していると国際社会にアピールしているような響きがある。
そして、正統の方はどこかしらに異端がいる、もしくは誰かを異端にしているような響きがある。
ブルゼイ族が過ちを認めてスヴェンニーとの結束を強めたにも拘わらず、まだ異端がいるようでいい気はしないのだ。さらに平等主義を掲げるカルルさんの目標とは相反する。
神聖は他が邪悪なのか、真性は偽物がいるのか、といった感じで同様だ。
内心、北公の“第二”もあまり良い気分ではないのだが、言ってしまえば北公幹部から袋叩きにされそうなので言わないが。
ではどうするのかと尋ねられたので俺は咄嗟に「普通に“ルスラニア”か、女王がいるなら“ルスラニア王国”で良いと思う」と早口で答えた。すると会議室は静まりかえり、誰も反論しなくなった。
ここで反論すれば、カルルさんに代替案を出せと言われるのは誰しも理解している。仮に代替案が出せなくとも、どこがどうダメなのかの明細な説明を求められる。
北公の会議は皆スヴェンニーらしく頭が硬く行われるので、ただ気に入らない、は通らない会議なのだ。
先ほどの幹部は不満そうに黙り込んでいる。代替案もなく、反対する理由も気に入らない以外に無いのだろう。
そのまま決議に移り、結果的に咄嗟に口先から出たものに決まってしまった。咄嗟とは言え、悪い物ではないと自分でも思うのでそれで充分だろう。
まだ幼い国王、セシリアの立場は外交的かつ民族的象徴としておかれた。その国王の参政権について、成人した場合に一市民と同程度の権利を与えられることになった。
だが、色々と条件がついていた。特定の政治思想への積極的な支持表明や自身での政治への介入は禁止された。
参政権があるといいながら、指示は表明できない。ほとんどないに等しいではないか。
しかし、まぁ、まだ幼いセシリアはそれくらいでいいだろう。と保護者でもないのに独りごちた。




