北の留鳥は信天翁と共に 第二十九話
北公は外貨の獲得や貿易など国外に向けてにとどまらず、技術導入や開発など国内に向けても力を入れていた。
ムーバリの持っていたブルゼイ・ストリカザを覚えているだろうか。
あの槍は本来ブルゼイ・ストリカザと言う名前ではなく、その柄に刻まれた『スヴェンニーの黎明はブルゼイ・ストリカザの日に』という銘からとられたものだ。
ブルゼイ・ストリカザとは向北語族ブルゼイ語で“ブルゼイ族を討つ”と言う意味であり、スヴェンニーの怨嗟の槍と言う方が正しく、分断と復讐の象徴のようなものだった。
しかし、最終的にブルゼイ族王家の末裔であるセシリアを窮地から救い出すために利用され、セシリアもベルカとストレルカもそれを目の当たりにしていた。
今後の扱いについてはしばしば議論がなされた。民族再統合の象徴として新たに意味を持たせて遺すべきか、過ちだらけの歴史を繰り返さない為にどこかに封じられるべきか。
しかし、様々な事業の多様化により幹部たちは多忙を極め、保存するか否かというどちらかと言えば後ろ向きな議論は下火になっていった。
細々と行われていた議論の最中にムーバリの手に渡されて以降、北公には無いと言うこと以外のその後の足取りを少なくとも俺は知らない。
鉄道のピストン輸送によりビラ・ホラは活気に満ちていき、発掘調査も盛んに行われていたそうだ。
あくまで聞いた話ではあるが、風などの影響で当時の建築物は風化が見られたが、密閉された空間には多くの資料が完全に近い形で残っていたのだ。
連盟政府形成以前の歴史が記された極地文書も発見され、解読により連盟政府を追い詰めた“アヴローラの夜”の原理が解明されたのだ。
オーロラ発生時に雷鳴系の魔法が上空に向かって昇るという特異な動きを見せるらしい。それを利用して、弱い魔力でも飛ぶことが可能だということなのだ。
飛行再現は可能だった。
北公にいる雷鳴系の中級者以上に原理を理解させて実証すると、オーロラが無くても飛行が可能だった。
連盟政府を追い詰めたという如何に凶悪な技術なのかと思っていたが、ブルゼイ族は魔力が弱く、雷鳴系の魔法が使える者が少なかったので完全にオーロラ頼みなだけであったのだ。
ユニオン、共和国、友学連に次いで独自の技術によってその航空列強国たちへの加入する可能性と、そして、それらとは全く系統の異なる飛行技術の獲得に一度は沸き立ったが、雷鳴系の魔力という限定された人力でありユニオンの小型機よりも出力が弱く高高度飛行はできなかった。
空一面をエメラルドに染めるほどにオーロラが出ていれば高高度飛行が可能だったが、不確定な要素が多くあまり実用的ではないとアスプルンド博士の像耳もあまり風を起こさなかったのだ。
しかし、低空、それも高さ一メートルほどまで物を浮かせることが出来るのは短距離輸送において便利かつ低コストなので、研究は引き続き進められることになった。
これはもっと先の話だが、アスプルンド博士があまり興味を示さなかった為、彼と彼のチームに独占されることはなく研究に時間を要することになったが、魔力電磁気学の発達に貢献し若手研究者の登竜門になったのである。




