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北の留鳥は信天翁と共に 第二十七話

 合意に至った会議が終わるや否や、アスプルンド博士は俺を呼び出し、早く汽車の設計図を手に入れられるようにルカスとティルナに個人的に催促してこいと言ってきたのだ。

 彼のその言動は探究心と好奇心故であり悪意はないというのは分かっていたが、目の前が見えなくなっていてるような言い方に少し腹が立ってしまった。(声もいつもの三割増し)。

 だが、雇用の問題も悪化の一途を辿っており確かに急ぐ必要はあると思ったので個人的に急かしに行った、と思ったらその場で渡されたのだ。

 ユニオン側は俺が最初に訪れた後には既に準備を始めていたらしい。


 北公に戻ってくると、ポータルをいつも開いている場所の前で仁王立ちし目をギラつかせて待ち構えていたアスプルンド博士に真っ先に見つかった。

 カルルさんへの報告をしてから渡そうと思っていたが、俺が背中に抱えていた図面ケースの筒を見るや否や、「今回は飲んだくれていないようだな!」と嫌味をチクリと言った後にそれをぶんどり研究室に引きこもってしまった。


 事後報告になってしまったので怒られるかと思ったが、カルルさんも何やら分かっていたようにただ頷き、「開発には一分一秒が惜しい。どうか彼を咎めないで欲しい」と逆に謝られてしまった。


 設計図があればすぐにでも汽車を作り出せる――と言うわけではないようだ。走る場所の環境がユニオンとは大きく異なるからだ。

 アスプルンド博士は三日ほど姿を見せなかったが、四日目の早朝突然幹部たちに会議室に集まるように号令をかけた。

 呼び出されて会議室で待っていると、主役登場と言わんばかりに汽車の設計図と共に現れたのだ。


 唐突に始まったその説明会では、汽車は最新型であり寒い砂漠でも充分に走ることの出来るものだと豪語していた。


 炎熱系の魔石により水蒸気を発生させる点は蒸気機関車と変わらないが、外燃機関への砂の侵入を防ぐ為に水蒸気は排出されることなく回収され、後部へと回り北部辺境地域特有の冷たい空気に冷やされて液体の水へと戻され再び循環していくというシステムを作り上げた。

 軌道が砂により埋没された場合を想定し、排障器の下部と前方に強烈な上向きの風を起こす排砂機を取り付けた。


 それから説明が終わると全員外に出るように指示され、落ち着かない前屈みで進む博士についていくと彼の研究所の倉庫に連れて行かれた。照明がつけられると流線型の鋼鉄の塊が置かれていた。


 なんと車両はもうできあがっていたのだ。


 いつ試行錯誤を繰り返したのかと疑問に思ったが、何かを言うまもなく倉庫のシャッターが明けられて試験走行が始まった。

 その際、排砂機から出る風が、かなりの風圧にも関わらず器用にもバラストを吹き飛ばさずに、試験的に築かれた十メートルほどの砂丘だけを簡単に吹き飛ばして進んでいく光景は不思議だった。


 砂漠仕様の車両開発と共に軌道を敷く為の地質調査も行われた。

 まずは明細な地図が作られた。北公には飛行機がまだ無いので、徒歩とスプートニクを頼りに測量が行われた。

 ユニオンは飛行機を飛ばした方が効率的だと提案してきたが、()()()()所属する測量用の飛行機を()()()()飛ばすのかということを強調し、最終的に自力でやると断っていた。

 ユニオンの意図は分からないが、他国との共同で地図製作など自ら弱点を公開しているようなものだ。やんわりと地図などやるかと伝えていたようだ。


 次の段階で作り上げられた地図を元にして線路敷設予定地を検討し、いくつかの案を出された。

 それが決まると、反響定位による非破壊での調査やボーリング調査が大人数で行われた。


 調査の途中で歴史的遺構がいくつも発見されたのだ。線路は奇しくも、かつてブルゼリアを去ったスヴェンニーたちの辿った道のりと一致したようだ。


 その都度、調査や工事は止まったが全て遺すという形で決まった。

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