北の留鳥は信天翁と共に 第二十六話
しかし、それは地政学的な港の有効性に気がついていないのだ。
この世界は少なくとも大きな二つの大陸がまとまって出来ており、それはルフィアニア大陸とエノクミア大陸である。
共和国の調査により地質の違いから別の大陸とされているが、隔てるものは大きめの河川であり、土木技術の未熟な二百年以上前であっても橋を架けられる程度と物理的にも心理的にも距離は非常に近い。
技術発達が進み海洋の先へと進出すれば新大陸が見つかるかもしれないが、現時点において大きな海洋を隔てて隣り合う国家は存在しない。それ故にこれまで戦闘はほぼ陸上で行われていた。
これまでの長い歴史の中で、早期に海を制したカルデロンを除いた他の者たちは未熟な航海術しかもっておらず、またはっきりとした地図もなかった。
高度な航海術を持っていたエルフたちは豊かなルフィアニア大陸にいたので、不毛の土地であるエノクミア大陸への侵略は意味を成さなかった。
海からの侵略という戦法を採った者がいなかったらしい。
しかし、現在は飛行機が空を飛び始めた。
測量技術の段階的進歩により精確さを増していく地図よりも早く、空を飛び始めたのである。
航空機技術の発達により目視で安全が確保できる距離は上空からでは広がり、さらにそれを広げていくことで正確な地図が作られていく。
やがて地図も全てがフリッドスキャルフ程度まで正確になることが予想されている。
さらに、飛行機は船で運べる。空母のように利用すれば海からの侵攻範囲も、これまでの土地の起伏や地質に影響される徒歩や馬での行動範囲よりも、天候さえ考慮すればさらに内部へ、そして素早く広げることが容易くなる。
渋る北公の幹部たちを抑えて、アスプルンド博士は港の増設を後押していた。和平を目指すと言いながらも、俺も港の建設に肯定的な立場をとった。
しかし、カルルさんは俺がユニオン寄りの立場でありバイアスがかかるというのを知っていたので、会議ではあまり発言をさせて貰えなかった。
だが、投票権は与えられていたので、採決が行われた際には港湾建設賛成に票を投じた。
結果として港が作られることになったのだ。決議前には否定的な意見が多かった気がするが、まあ色々とあったのだろう。
硝石の輸出に関しては、北公から技術発達が著しい国家に対して輸出する場合は大きく関税をつけられることになった。
ユニオン自国で採掘されている硝石の価値保存と産業の保護の為だ。それにしても“技術発達が著しい国家”という曖昧な設定がどうも引っかかる。
そして、多くの条件を飲んで飲み込ませ、やっと鉄道技術の供与がされることになった。
鉄道建設に際しては、またしても別に条件を突きつけられた。ユニオン側は条件とは言わずにお願いという形で、今後作る鉄道の線路軌道幅はユニオン基準で作るように強く要望してきたのだ。
おそらくユニオンは今後何らかの形で戦争が落ち着いた後に、北公まで鉄道網を広げようとしているのだろう。
凍結中のマルタン周辺を除けば、友学連ストスリアまでの単線の路線が出来ていて、さらにリティーロまでの路線を計画中、一部区間での着工は開始されているそうだ。
ユニオンの鉄道は共和国とも同じ軌道幅だ。やがて鉄道王にでもなろうとしているのだろう。




