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北の留鳥は信天翁と共に 第二十四話

 しばらく白ワインや他の度のキツい蒸留酒が絶え間なく提供されて、食事も大量の魚料理や肉料理の後にオードブルとスープが同時に出るなどが順番も量も無視されて次々振る舞われた。

 そうしているうちにルカスはだいぶ酒が回ったようだ。ヤシマは相変わらず緊張しているようで、グラスの一杯も進んでいなかった。ティルナはルカスのペースに合わせているが変化が全くない。惨めなほどに酔えないザルのようだ。

 かたや俺は緊張感を紛らわす為にルカスよりも早く飲み続け、進むにつれて気がつかぬうちに解放されていた。

 こみ上げていた懐かしさに包まれてさらに飲み続け、蝶ネクタイの緩みに拍車がかかり、コートの皺さえも気にせず酔いが回り始めていた。

 クリーニングしてプレスでも何でもすればいいさ。


 だが、飲みながらもセシリアのことを忘れているのではないかといつものそれが頭を過ると、手が止まってしまった。

 ふと、ルカスには娘がいたことを思い出した。そして、家族の仲も土地柄なのかとても良かった。

 セシリアの年頃、だいたい六歳ぐらいはどうだったのだろうか。俺は聞いてみることにした。


「ルカスさん、娘さんはお二人とも元気ですか?」


 そう尋ねると「なんだ。ラウラに興味があるのか!? それともローサか!?」とルカスは身を乗り出して食いついてきた。


「いえ、違います」


「ウチの娘は魅力的じゃ無いとでも言うのか!?」と鼻息を荒くした。


「娘さんは美人ですよ。男なんていくらでも寄ってきますよ」


「ふははは! そうだろう。自慢の娘だ! で、君は、君自身はどちらかといえば、どっちがいいと思うかね?」


 ルカスは顎を引き、試すような上目遣いのにやけ顔を向けて来た。


「ハッキリ言わせてもらいますが、娘さんを差し出そうとするのは止めた方が良いですよ。時代も変わり始めてますから」


 酔っていたのか、随分な物言いをしてしまったと言ってから思った。ルカスはグラスを久しぶりに置くと顎に手を当て困った顔になった。


「しかしなぁ、父親としての心配もあるんだよ。

 二人ともエノレア育ちで男を知らず、少々奥手でな。もらい手が出来なかったら、どこぞのウマの骨に、というのもあるのだ。

 君はまともというわけではないが、よく知っている。その上で私は娘たちを任せたいのだがな」


「そういうところからスパイ行動を取られるかもしれませんよ?」


 そう言うとルカスは口を開けて大声で笑い出したのだ。


「ぶふはははは、なーにを言うかと思えば! 君やヤシマのような性格のヤツにスパイなんかできるわけなかろう! 逆にお前らが探られてしまうぞ!」


「信頼が厚いようでありがたいです」


「誰でも良いとでも思ってるのかね? 娘と国の未来を任せようと言うのだ。いい加減な人選はするわけがない」


 ルカスの表情は笑っているが、何やら押しつぶす覇気のようなものを感じた。

 それからもルカスは気を良くし、どんどん進めてくる酒を進めてきた。

 俺は少し無礼だとは思いつつも、一時は任務を投げ出して放浪していたことへの罪悪感からの反動かその全て飲み干していった。

 結局、子育ての話など聴ける機会など無かった。




――それから俺は最悪のことをしたかもしれない。


 ルカスもだいぶ飲んでいたので、俺も合わせて飲んでいた。ワイン自体も美味しく、合わせて飲んでいることに苦痛はなかったし、それどころか積極的に飲んでいた。


 ことまで覚えている。


 目が覚めたとき、俺は豪華な一室の天蓋付きのベッドの上にいた。ベッドから頭を起こすと、ルカスの娘のラウラが椅子に座って腕を組んでいるのが見えた。

 目が覚めた俺を一瞥すると、フン、と鼻を鳴らして部屋から出て行った。


 くしゃくしゃになっていたがモーニングコートのままだったので、慌ててルカスに挨拶をしてカルデロン別宅に戻って着替え、さらにそこから北公の基地へと戻った。

 昼から飲んでいたのでさすがに朝ではなかったが、戻ったのは深夜になってしまった。


 個人的な用事ということだったので、何時までに戻ってこいと言う具体的な指示はなく、非番の終了時刻までに戻ってくれば何時間かかっても問題はないことになっていた。


 しかし、さすがに酒臭いままで手紙を渡したことを報告すると渋い顔をされた。

 それから部屋に戻り、起きて待っていてくれたアニエスにも顔を合わせられなかった。

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