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北の留鳥は信天翁と共に 第二十二話

 再び誘導の沈黙が訪れようとした、そのときだ。

 ティルナが人差し指でこんこんとテーブルを叩いて沈黙を崩して割り込んできた。


「それは今度、北公の正式な特使が来てから具体的に話すことにしましょう。

 イズミさんは北公の特使ですが、北公の主要産業について様々なことは知らないはずです。

 ブルゼイ族たちもまだ不安定ですし、技術供与してもきちんとした産業として継続することが出来るかどうか。

 仮に不安定な状態が続きさらに技術や人材を要求されるようなことになったとして、こちらから供給を続けて利益を出すか、それとも投資に見合わないほどの負担がこちらに予想されて断る必要があるか、判断材料としての話合いが必要です。

 そこもきっちり話し合わなければいけませんからね」


 と俺には何の権限もないことを知っているのか、横から遮ってくれた。

 ルカスは「それもそうだな」と背筋を伸ばしながら何度か頷いた。


「そう言う具体的な話はまずは置いておこう。こちらにも相応の準備が必要だからな。だが、誰もが無視しがちなことを言っておきたい。いいかね?」


「まだ何かあるのですか、大統領?」とティルナが少し苛ついたように首を傾けてルカスを見ると、ルカスはまぁまぁと右手を扇いだ。


 そして、「私にはどうしても欲しいものが一つある」と目を細めた。


「富も権力も得た。これからもそれを拡大していく。だが、どれだけこれから得られる物が多くとも、自力ではどうしても手に入れられないものがある。わかるかね?」


 ルカスの欲しい物などおおよそに理解出来る。分かっていたが俺は何も答えずに黙った。


「私は移動魔法が欲しい。それも道具無しで使える、その血筋がな」


 やはりという感じではあった。ルカス本人も俺がそれを分かっているかのように話を続けた。


「技術が発達するにともなって輸送手段がその速度をどれほど上げようとも、移動魔法に敵うものはない。しかし、移動魔法についてどこもあまり口にはしようとしない。何故だと思う?」


「わかりません」


「移動魔法を使えるのは心を持つ者であり、それは揺らぎが大きく不確かだからだ。

 列車や飛行機は一人では動かせない。大勢が協力して動かす。動かそうとする者がその中に大半いれば動かすことは出来る。

 しかし、移動魔法は一人だ。西に行け、東に行け、と上が指示を出したところで、行き先の意思決定は発動者だけで行われ、なされる行動も発動者に依存する。

 たった一人動かせれば素晴らしい結果が得られるが、そのたった一人を動かせなければ何の結果も得られない。

 大勢を動かすことのコストというのは、ある意味保証という役割もあるのだ。

 幸いなことに、今ユニオンにはヤシマがいる。さらに、ありがたいことにユニオンに忠誠を示してくれている。

 だが、彼はアイテム無しでは移動魔法が使えないのだ」


 それまでヤシマは完全に蚊帳の外に追いやられて硬直していたが、ルカスの言葉に息を吹き返したように動き出し、二回ほど大きく頷いた。


「私はその不確かなものを確実なものにしたい。いつ如何なる状況においてもユニオンに忠誠を誓う、移動魔法の血筋がな。傲慢に独占したかのトバイアス・ザカライア商会の様にな」


「それはつまりユニオンに移動魔法が使える者を永住させろと言うことですか?」


「何度も言ってきたし、何度も言われてきたことで君も分かっているだろうが、移動魔法を使える者を一カ所に留めるのは不可能だ。

 いつどこにいても構わないが、我々ユニオンの呼びかけには絶対に応じて貰えれば良いだけだ。

 現時点でヤシマをユニオンに託したのは君であり、彼が持つアイテムも君が与えたものだそうじゃないか。

 北公の非公式特使としてここに顔を出している割りに、こちらが飛行機を渡さなくて良いように取り計らったり、北公内部でユニオンによる捕虜奪取問題を解決に導いてくれたり、さらには新規市場への誘致をしたりと貢献度は高い。

 これはあくまで提案だが、もはやユニオンへ籍を置いてしまってはどうかね?」


 ルカスはテーブルに肘を付き、組んだ手の上に顎を載せた。


「そういえば、うちには若い娘が二人いる。君も既に会っていると思うが自慢の娘だ。

 今日はどうするのかね? 終わったら帰るのか?

 北公は寒かろう。過ごしやすいこちらで一晩でも泊まって身体を休めたらどうだ。

 我がブエナフエンテの家には空室が多いし、離れもある」

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