北の留鳥は信天翁と共に 第二十一話
「なるほど、硝石をビラ・ホラから北公の領域まで運び出す為の貨物鉄道か」
そういうと顔を俺の方へと向けた。
「ビラ・ホラからわざわざ採掘して遠距離を運んで持ってくるくらいなら、余所から買った方が早いのではないか?
確かに、資源国でもある共和国からの持ち運びには距離がある。しかし、我々ユニオンなら大型船舶で届けることも可能だ。その方が安く付くのではないか?」
もう言い訳のネタ切れである。「いえ、あぁ」とため息が出てしまった。
「もう隠しても意味がないようですね。俺がそういう駆け引きが出来ないのはよく知っているはずです」
「では、話したまえ」とルカスは右手を差し出して促してきた。
「技術供与により雇用を生み出そうとしているのです。
灰白の早雪宣言をお聞きになっていたと思いますが、北公はブルゼイ族を正式に民族として認めました。そのおかげで北公にブルゼイ族が流れてきているのです。
そして、閣下は流入して集結した彼ら全員に北公での籍を与えました。ですが、そのほとんどが職にあぶれている状態なのです。
ビラ・ホラからノルデンヴィズなど北公各主要都市部への鉄道敷設を含めた硝石関連事業はこれまでに例のない大規模なものになることが予想されます。その分で雇用を補おうというのです」
「籍を与えたことでカウント外だった無職の者が増え、完全失業率が跳ね上がった。国家が一番成長する最初期段階での高い完全失業率は成長を押さえ込みかねない、というのもあるのですね」
ティルナは冷静に付け加えた。
「そうです」
「なるほど。対外的な目的よりも内部に向けた意味合いが非常に強いな。
では、鉄道の技術供与をすることで我々ユニオンは何を得られる?
対価は充分にあろう。辺境孤児支援基金という、元手が真っ当ではないが資金は協会から監査がくるほどに潤沢なのだろう?
もちろん、我々も外貨獲得が出来るのでエイン通貨でも構わない。
しかし、それは一時的なものだ。技術供与の結果はすぐに得られる対価だけではない。おおよその場合にして対価以上のものを与えている。
では、その足りない分はどこからくるのか。
それは未来への投資なのだ。つまり、これから北公はユニオンに対して何をしてくれるのかということも込みでするものなのだ。
北公は自分の権利しか考えていない反乱者で作られた有象無象の寄せ集めの国、何処ぞの亡命政府のように、ではなく、今後存続していく可能性は充分に認められる。
しかし、硝石はユニオンには共和国に輸出するほどにある。武器も豊富だ。発展した科学技術をもつ共和国とも友好的。友学連もあり優秀な人材も溢れている。
もちろん北公という巨大な商圏は魅力的だが、それだけでは足りない。
今の世界情勢を鑑みた上でどのようなリターンがあるのか、そこだ」
ルカスはそれだけ話しておいて連盟政府については何も言わなかった。俺自身も今ここで考えつく北公がユニオンに出来ることは、連盟政府に対する足並みを揃えることしかない。
試すようにルカスはあえての不言及と沈黙を作り、やや顎を引き気味の無表情で見つめてきている。




