北の留鳥は信天翁と共に 第十九話
ティルナが止めに入った。
ルカスは俺をどこにいさせたいのか、一方の俺はどこにいたいのかもわかっていないと言う状況で話を続ければ終わることのない平行線が続くことを察して止めに入った。
「それもそうだな」とルカスもやや諦めたかのように引いた。
「今すぐに君は立場を明確にする必要はない。だが、いずれ君もどこかに腰を据える日が必ず来るぞ。
少々遠回りになったな。それに本題に移れないのは困る。いつまでも料理が出てこないのは私も辛い。早雪明けの海産物という、数年に一度の美食を味わえるというのに」
「食事はある程度進んでからにしましょう。合意は食事のときに得やすいと言いますが、我々は求められている側。安易に首を縦に振るわけにはいきません」
「では本題に戻ろうか。今この場での君は北公の特使として扱う。取引となると多少相手を脅しておかなければいけないのでな。すまないな」
ティルナが読み終えてテーブルに置いていた手紙を持ち上げて広げると、再び読むように視線を左右に動かした。
「繰り返すが、君の持ってきた手紙には技術的支援を求める内容が書いてあった」
そう言うと手紙の縁から視線を投げかけてきた。
俺はどこを読んでいるのか気になっていた。内容も一行や二行で終わるような物ではなく、円卓の向かいからでは判別できないほどの小さな文字でびっしりと書かれている。
手紙の内容を見せてはくれないだろう。なぁなぁ曖昧にしたのが仇になった。
「“大量に物資を運ぶ手段としての鉄道”と書かれているが、カルル閣下はどこで“鉄道”の存在を知ったのかね? そして、それが陸路長距離では非常に有効な運搬手段であることも」
「俺が言いました」
「なるほど。構わない。しかし、我々の得意分野は船だというのを知っているなら、造船技術を欲すると思うが。
そして、輸送手段としてなら飛行機の方が速い。それは君も知っているはず。
だが、この手紙の中に飛行機という文字は書かれていない」
「鉄道は固定されたレールの上を走るので、大量輸送には向いていますが軍事転用は限定的になります。飛行機は機動性が高いですが、大量輸送には向きません。
しかし、上空というのは非常に見通しが効きます。機体を大型化すれば大きめの兵器も積めるので軍事転用される可能性が高くなります。
現時点で話し合われるべき事は、戦闘に際しての話ではなく、如何に大量輸送を効率的に行うかについてです。飛行機にはその大量の物は重すぎるので」
「確かに。だが君は、あぁ、まぁ、そうだな。うむ」とルカスは呟きながらも混乱したような顔をしている。すぐに表情を戻して質問を続けた。




