北の留鳥は信天翁と共に 第十五話
「ユリナ長官が取引をしたのは、捜索が始まってからだいぶ経過してからだ。
時系列を追って言えば、クライナ・シーニャトチカに出向いた前後、どこかでその火薬を入手し、成分分析も完了してから商会との取引がなされたとなる。
ユリナ長官は誰かが作り出したガンパウダーを量産し、商会を経由してどこかに売ろうとしていたのではないかと私は考えている。
しかし、ガンパウダーはおろか、そもそも火薬は連盟政府では使用頻度が少ない。魔法があるからな。ではどこか」
ガンパウダーの成分解析をしてから商会と取引。商会が売れるところと言えば連盟政府か、その当時はまだ商会と仲違いをしていなかった北公。
だが、連盟政府は何から何まで魔法頼みの社会で銃はまだ存在しない。一方の北公は……。
まさか、と思ったときには既に遅かった。
俺が気づいた瞬間にどのような動揺ぶりを見せたか、それはもうわからない。だが、見逃さなかったであろうティルナとルカスは顎を引き気味に俺を真っ直ぐ見つめている。
「魔法使いが多くないどこかが、生活の為に火薬を必要としているだけじゃないんですか?」
すっとぼけてはみたものの、もはや自分でも無理があるのが分かるほどに馬鹿馬鹿しい。言った後に笑って誤魔化そうと右口角を引きつらせた。
「そうだな。魔法使いが少ないところがな。そして、ガンパウダーを今まさに大量に必要としているところが、な」
ルカスは笑い返すこともなく、否定さえもしなかった。
この二人は共和国の取引相手が北公であると引き出そうとしている。いや、違う。もう北公であることは確信している。その先にあるものだ。
そして、この二人との会話を通じて俺の頭の中では、ユリナが量産を試みたのはどこのガンパウダーであるかと、北公と共和国の間で商会を通じた取引があったものだという理論が組み立てられてしまっている。
ユリナが北公のガンパウダーを入手に至った経緯は、おそらくセシリアの持っていた弾薬をジューリアさんがユリナに渡したのだろう。
射撃の練習というのですっかりジューリアさんを信用していたので、そこまで手は伸びていなかった。
だが、彼女に裏切られたとは思わない。信用していたが故に、弾薬の扱いについても一任していた。
裏で勝手に流されていたとはいえ、そこまで咎めようという気が起きない自分がいるのだ。
そして、気がかりになるのは、商会が(というよりもレア個人が)アスプルンド零年式二十二口径を持っていたことだ。
それがその行われた取引において何かとても重要な役割を果たしているような気がするのだ。
だが、共和国はもう既に銃社会が長い。そのような状況で北公という銃社会になったばかりの国の技術が共和国にメリットをもたらすとは考えにくい。
銃の役割は兵器としてではなく、銃の存在その物に意味があるのかもしれない。




