北の留鳥は信天翁と共に 第十二話
いつの間にか背後に控えていたはずの使用人たちは部屋から退出していて、気がつけば部屋の中は完全に四人だけになっていた。
遮光と言うには些か分厚いのではないかと思うようなカーテンも閉じられており、外の様子が全く見えなくなっていた。
ルカスは準備が整ったかのようにゆっくりとグラスを置き前屈みになり、俺を真っ直ぐ見つめてきた。
楽しく食事とは言ったが、包み込む空気が明らかに張り詰めたことに気がついた。
「君はスパイ、というのは言い方が嫌だろうな。大っぴらに動ける範囲で北公の簡単な内部調査だけで良いと言ったはずだが、随分色々動いてくれたようだな」
「報告が遅くなりました。申し訳ないです。現地で色々と、あー、まぁほとんど個人的なことですが、ありまして、そのせいで個人的ではないことも起こしてしまったので」
俺は空気が変わったことに気がついていても久しぶりの上等な酒に舌鼓を打ち思わず進んでしまい、遅れて口を離した。すると、ルカスは前屈みになりテーブルに両肘を付いて手を合わせた。
「で、どうなのだね?」と探るようにさらに眼差しを強めた。
「現時点での北公はユニオンとどういう立ち位置なのか、そしてこれからどうたち振る舞っていくのか、知り得た分、時間を要した分、具体的に教えて貰おうか」
すいません、とグラスを置き、ナプキンで口元を拭き姿勢を正してルカスの方へ向き直った。
「カミーユ・ヴィトーの件で言えば、捕虜を奪ったことで敵視されても差し支えないでしょう。俺たちもユニオンのワッペン撒いていきましたし」
「カミュはアニエスさんの人道的観念に基づいて生かされていただけでしょう?」
ティルナが身体を前に向けたまま視線を合わさずに横からそう言った。
「ええ、まあそうです。
ただ生かされていただけだったので、戦略的価値のない一捕虜が逃げ出した程度で済んでいると言えばそうです。
しかし、現時点でそれ自体にもはや風化の色合いがあり、過去の出来事の一つとして埋もれつつあります」
遠回りになってしまった俺の言い草に、ティルナは少し苛ついたようになっているがルカスは瞬き一つせずに辛抱強く言葉を待っている。
「結論から言えば、あなた方の客となるかと思います」
そういうとティルナは表情を変えた。そして視線だけを俺に向けてきた。
指定されたもの以外は持ち込ませないようにする為に用意されていたコートはポケットというポケットが物を入れられないような仕組みになっていた。
しかし、ちょうど手紙が入りそうな大きさの内ポケットが一つだけあった。俺はそこに北公で預かっていた手紙を入れていた。
「失礼」といってポケットに手を入れたことで緊張が走ったが、取り出されたものが手紙だと分かるとそれは収まった。
「俺は読んでませんが、これに書いてあることが北公側のユニオンへの希望だと思います」
手紙を弾いてテーブルの上をルカスの手元まで滑らせた。が、真ん中を越えた辺りで止まってしまった。
ヤシマはムッと俺を睨むと手紙を取り上げようと立ち上がったが、ルカスは彼を制止した。自ら立ち上がり、手紙と俺を交互に見つめながらそれを持ち上げた。そして、封を開けて読み始めた。




