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北の留鳥は信天翁と共に 第十一話

 ヤシマとは車内で話したし、ティルナには話しかけづらい。それからは特に話さずに待っていた。

 俺は大人しい二人とは違い、気まずさと手持ち無沙汰にキョロキョロと首を落ち着き無く動かしてしまった。

 しばらくしてヤシマが、ホラ立て、と小声で囁いたので、連れられるように立ち上がるとドアが開けられた。ルカス・ブエナフエンテ大統領がやってきたのだ。

 相変わらずの白スーツにユニオン国旗柄のネクタイという、強烈な出で立ちだった。

 しかし、彼もまた国を治める者としての自覚も以前よりも増したのだろう。以前のコーヒー豆農家の陽気で丸い雰囲気は完全になくなっていた。


 誰も彼も、俺が逃げている間にすっかりと変わり果ててしまったのだ。

 世界は俺を置いていく、のではなく、俺は進むことから逃げているだけなのではないか。寂しくも焦りも感じた。


 ルカスは俺を見ると懐かしい者を見るように口角を上げて、

「久しぶりだな。しかし、少し見ないうちにやつれたな。歳を取ったと言うよりも、なんだ、こう……、所帯やつれをしたようだな」

 とうむうむと頷きと早速話しかけてきた。

 テーブルの側へと歩み寄ると「おいしょ」と使用人が引いた椅子にどっかと腰掛けた。

 一言言葉を発すれば、そこには昔のルカスがいた。だが、相手はもう雲の上の人だ。

 親しく以前と変わらない話し方をしてきたからといってこちらも家族愛に溢れる頭目に親しげにするのには抵抗があった。

 ヤシマも視界の隅でビクビクしているのが見える。


 跪く、のもどこか変な気がしたので、一礼して「ルカス大統領、本日はお忙しいにも関わらず、このような場をご用意いただき……」と丁寧に挨拶をしようとしたが、ルカスは「あぁあぁやめやめ。面倒くさい。さっさと座った座った」と頭が重い物であるかのようにぐるりと回して右手を挙げると、掌を扇ぐように動かした。


「君とは長い付き合いじゃないか。私を追い詰めた君にそう言う恭しい態度をとられるのは、何やら嫌味なものを感じるぞ。うちのベランダでのんびりコーヒーを飲んでいたときのようにしろ」


 ルカスが椅子の肘掛けに寄りかかり肘を突いた。ヤシマはそれに目を丸くして俺とルカスを交互に見ていた。


「まぁ、確かにその方が楽なんですが、一応あなたの今の立場を考えると」


「今ここにいるのは、私とティルナとヤシマだけじゃないか。使用人も前と同じだ。ヤシマも君の友人なんだろう? 第一、今日は非公式で個人的な話合いなんだろ?」と言うと、目を一瞬大きく開き合図を送ってきた。


「そういうつもりですね」


「では、私も大統領ではなく旧知の友人と食事を楽しむつもりでいよう」


 ニッコリと笑顔になると「はじめようか」と使用人に合図を出した。使用人は頭を下げると食前酒を持ってきた。


「共和国の東側で採れたブドウのスパークリングワインだ。最高級というわけではないが、とてもうまいぞ。その方が気張らずに飲みやすいだろう。安くはないがな! ふははは!」


 全員に注がれるとグラスを目の高さまで持ち上げた。乾杯はやはり「家族のために(パラ・ラ・ファミーレ)」だった。飲み込むと久しぶりの炭酸が喉を潤した。

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