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北の留鳥は信天翁と共に 第五話

「うおおっほほう、イズミ! ひっさしぶりじゃねーか!」


 俺はいつも通りカルデロンの別宅の玄関ポーチにポータルを開いた。

 大きくなっていくにつれて流れ込んでくる空気は温かく、肌にべたつくような湿気があった。

 海流性の亜熱帯特有の木から立ち上る独特の甘い匂いが流れ込んできた。久しぶりの亜熱帯の踊り出すような匂いに足を掬われて、南の島の空港に降り立ったときのような浮かれるような気分になった。

 これまで北国で絶えず冷えて乾いていた身体は、その暖かさと湿気に喜びを覚えてしまうのだ。

 本日のカルデロンは曇りで穏やかな南風だったが、噴火の時のようなどんみりとした曇り空ではなく、石の匂いのする湿った風によって運ばれてくるやがて降る雨をいくつか越えれば夏が訪れるような低い雲だった。


 世界は早雪を終えて、そして噴火を乗り越えて、元に戻りつつあるのだろう。


 白く輝く雲を見上げて目を細めていると、細身の黒いスーツを着たコンチネンタルひげの男が別宅のドアを開けて笑顔で出迎えてくれた。


 見慣れないが妙になれなれしい男が声をかけてきたので、誰かと思って目をこらすとよく知っている人物だった。

 いつもだらしないジーパン男のイメージしかなく、整えられた身だしなみのせいで誰だか分からなかったが、カトウとはまた違った浮き足だった話し方に頭の中が追いついた。


「あぁ、なんだ。ヤシマか。元気そうだな」



 会議の後、手紙を貰う以外は何も言われず、後は勝手にやれという放置をされた。連絡も俺がした。

 即やらなければ殺すと言うような圧力を全く受けなかったのは、カルルさんも俺自身がユニオンに戻って報告をしなければいけないことがあるという焦りを察しての判断のようだ。

 彼方此方の修羅場を抜けてきた、自分でもそう言っても過言では無いと思うほどには色々と積み重ねては来たが、俺はまだ自分が素人だと思っている。(むしろ責任回避の為に素人であろうとしているのかもしれない)。

 そんなの任せでいいのかとは思うが、むしろ素人である方が良いというメリットもある。


 というのも、商会はキューディラの傍受をしているようなのだ。


 他の勢力を刺激しないようにするために、俺とルカス、ティルナとの親しい間柄を利用して表向きの最初の一手は「北公は芋ばかりだ。生魚を食わせてくれ」と言った連絡を堂々とすることで“なぁなぁで曖昧な身内で完結するやりとり”を装い、それを足がかりにして両政府の会談を秘密裡に持ち込むつもりなのだろう。


 しかし、さすがに飯をくれというのは些か失礼であまりにも安直なので、

「新鮮な生魚とか欲しい物がたくさんあるんだけど、カルデロンでしか扱えないものだから、近々、そちらに向かいたい。カルルさんはこの間ノルデンヴィズ前線基地で落としていった大量のワッペンが邪魔なので返したいそうだ」

 とティルナにしておいた。


 その連絡を入れた三分後にヤシマから「早雪明けのうまい魚を食わしてやるから明日朝一で来い」と軽い返事があった。


 そして、その翌日の朝、俺は単身ユニオンを訪れていた。

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