北の留鳥は信天翁と共に 第四話
話が終わると、集まっていた視線は俺から離れて迷うことなくカルルさんの方へと一斉に向けられた。
いきり立っていた幹部たちはその頃には大人しくなっていた。幹部クラスにもなると賢い人が多いようだ。
大量輸送における鉄道の利便性については短い説明で充分伝わった様子で、その場で立場が一番上である彼に意見を求めたようだ。
カルルさんはユニオンの真意にはすでに気がついていたようで技術供与について何も言わず深く大きく頷くだけだった。
しかし、ユニオンからの技術供与が決まりそうになったとき、再び待ったがかかった。
北公は離反の際に金融協会を裏切っており、その金融協会に近い立場のユニオンへの北公からの積極的な接近に対して否定的な意見が出たのだ。
だが、北公内部でもブルゼイ族内部でも現在の状況を打破する案が他になく、ユニオンから優れた鉄道技術を貰うことへの反対意見は燻る程度ですぐに消え、時間を要さずに決定された。
もちろん、飛行機のことは黙っておいた。
しかし、アスプルンド博士は鋭く、「空を飛ぶという例のあれは直線で移動が出来るので移動魔法に次ぐ速さではないか」と終わり際に尋ねてきたので、カルルさんに意見を求められた。
確かに移動速度に関して言えば現時点で移動魔法の次に速いが、一度に運べる量に限界がある。
さらにビラ・ホラは砂が多くさらにキメの細かいもので、離発着の際に強烈なブラウンアウトが発生する可能性が高く飛行機は向かないことを説明した。
だが博士はなかなか納得せず、例の象耳集音アンテナ(会議のときも着けているのは異様だが皆慣れているようだ)を振り回して「わし自身が欲しいんじゃあ!」と最終的に本音を丸出しにした。
研究対象として魅力的なのは分かるが、おそらく飛行機はユニオンの伝家の宝刀なので貰えることはないと伝えると渋々ながらも納得し、カルルさんも納得していた。
このとき、飛行機は戦争のあり方を銃と同じほどに変えるという事実は黙っておいた。
博士も閣下も薄々と気がついているはずだがまだ実際の戦闘で用いられたところを見たことはなく、手元にあり常にのその性能を見続けているルカスほどには理解が追いついていない。
もし、俺がその場で懇切丁寧にそれらを説明し具体的な形にしてしまえば、彼らの頭の中に風を立ててしまい、欲しがるのは間違いないからだ。
遅かれ速かれ、技術はもたらされる。出来る限り後に、せめて北公と連盟政府との戦いが終わるまでは持ち込みたくはない。
“戦争を早く終わらせる為のより強い兵器”や“抑止力としての強い兵器”は偽善者の見る浅い夢からこぼれた寝言でしかない。より強い力はより激しい争いを呼び込む。人類はそれを繰り返しているのを、俺は知っているから。
会議も終盤にさしかかると、誰がユニオンとコンタクトを取るかの話合いになった。
当初はカルルさん直々にユニオンへの視察が予定されていたが、二国の過度の接近は危険度が高いため、他の人間が派遣されることになった。
そして、カルデロン・デ・コメルティオとの取引を行うための戦端を開く役割に白羽の矢が立ったのは俺だった。
俺の顔がカルデロンの会長のティルナにとどまらずルカス大統領に直接利くことで円滑に話を進めることができると踏んだのだろう。
カルルさん自身が手紙を書き、それを俺が届ける、という流れになった。
それ以外の具体的な指示はなく、書簡(といよりただのお手紙)が用意されたこと以外は正式ではない。
大丈夫なのかと不安を覚えつつも会議は終わり、そして、次の日には早めに行けと言われて手紙を渡された。




