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失うことで得るもの 第四十二話

「セシリアにはこれからやらなきゃいけないことがあるんだ。よく聞いておくれ」


 セシリアは顎を引いて一度止まった。だが、すぐにさらに顎を引いてゆっくりと頷くような仕草を見せた。


「セシリア、君はこれからお姫様にならなきゃいけないんだ」


「私がおひめさま? どうして?」


「君にはね、すごい力があるんだ。いるだけでたくさんの人を勇気づけられる。もちろん、パパもその一人だ。だから、その人たちの為にみんなの前に立たなければいけない。

 パパはね、君がたくさんの人を笑顔に出来るように願ってるんだ。もしお姫様になってくれれば、みんなが勇気を持てて笑顔になれる。その願いが叶えられるんだ」


 自分の為という理由でしか彼女の背中を押せない自分が嫌になった。

 もっと前向きな、例えば毎日綺麗な服を着て、美味しいものをたくさん食べて、いろんな人に笑顔を振りまいて幸せに生きる、なんて気の利いたことを言えないのか。情けない。


 俺はかつてククーシュカに罪を償わせる為に時間を戻し、セシリアとしてやり直させるという罰を与えた。


 数えるのも忘れるほどにたくさん殺して、多くを悲しませてきたそれまでの全てを否定した。

 その代わりに、新たに歩み出したくさんの人に笑顔を振りまいて、何倍も多くの人を幸せにするように願っていた。

 だが、俺はこの小さなセシリアと共に過ごすうちに、彼女を幸せにしたいと思うようになり、いつの間にか罰を与えることなど忘れ、一人の親として自覚(錯覚)し、そして、過保護になっていた。


 大いなる存在によって与えられた力は、大いなる存在の意思に因るところがある。

 自らの行いはその意思によるなどというのは、神の代弁者と自ら宣うようで傲慢だ。そして、小さな存在である自らのただの我が儘を、大いなる存在に責任転嫁しているとも言い切れない。


 俺は俺自身の願いの為にセシリアにこうして新たな人生を与えた。


 俺自身の願いとは、セシリアの罪滅ぼしであり、今とこれからはセシリアの幸福だ。

 しかし、俺をパパと呼び慕う彼女を王にすることで得られる幸福は、彼女にとって本当に幸福なのか。

 俺自身はそれに因る恩恵よりも、彼女が傍にいることを望む。


 だが、本来は――何度も言うが――罪を滅ぼし、たくさんの人を笑顔にすることだ。

 彼女をブルゼイ族の女王にすることでその本来の目的が果たされるのではないだろうか、そう自分に言い聞かせた。


 俺の声は震えていたのだろう。俺自身の持つ引き離されることへの抵抗感がセシリアに伝わってしまった。彼女は瞳を震わせ始めた。


 しばらく言葉を交わさずにお互いに黙り込んだ。別れの気配があることを察してセシリアも俺も言葉を選んでいたのだろう。

 だが、どれを選んだとしても結論は変わらない。それでも薄々と見え始めた結論を回避するような、たった一言で全てを覆せるような一言を探していたのだろう。


 セシリアは鼻をすすると「誰も私から離れない……?」と震えてかすれた鼻声で尋ねてきた。

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