失うことで得るもの 第四十一話
長い廊下を抜けてつきあたりを曲がり、階段を上って部屋のあるフロアにたどり着いた。
そこにも長い廊下がある。その先にある自分たちの部屋のドアの脇で男女の二人組が立っていた。ベルカとストレルカだ。
ドアを開けてアニエスとセシリアを部屋へ導くと、挨拶をして中へと入っていった。
俺は立ち止まりちらりとその二人組の方に視線をやった。すると「あぁ、なぁ……」と喉の奥から引き摺るように出した気まずい声で呼び止められた。
「分かってる」
すぐに顔を左右に振り視線を外して小声でぼそぼそと早口で答えた。
二人は腕を組むと困ったように眉間に皺を寄せ顔を見合わせた。そして、念を押すように「邪魔はしたくねェ。ねェンだが、」ともう一度催促してきた。
この二人組は俺の気持ちを考えてくれている。引き下がることも出来ない。だからこそ繰り返し尋ねてきたのだ。
二人にとって、この二人に限らずブルゼイ族にとって、国家再興は流浪と貧困からの脱出がかかっているのだ。
しかし、この二人は俺たちを長く傍で見てきた。もし自分たちが俺の立場なら、と考えると首を縦に振らないのではないかという不安が生まれるのも理解出来る。
「分かってる!」
言い返すように語気が強くなってしまった。彼らへの怒りではなく、自らの不甲斐なさへの怒りがこみ上げてくるのだ。
「分かってる。分かってるとも」
声を荒げたことだけでなく、様々なことへの申し訳なさに小さくなった声でもう一度そう言った。
ベルカとストレルカは眉を上げて肩をすくめるだけだった。それ以上は何も言わなくなり、再びドア脇の壁により掛かった。
部屋の中に入るとセシリアはちょうど寝間着に着替え終わったばかりなのか、屈んだアニエスの前で両手を挙げていた。
もう眠る準備が出来ていているようだ。遅れて部屋に入ってきた俺を小首をかしげて覗き込んでいる。
アニエスは俺の覚悟を決めた、と言うよりも無理に取り繕った顔を見て何かを察したようだった。
セシリアの着替えを腕に駆けて立ち上がり、その場を静かに離れた。
「セシリア、大事な話があるんだ」
俺は屈んで彼女に視線を合わせた。彼女は、その大事なことの内容ではなく、俺自身の中にある感情を探るように左右の目を交互に見つめた後、不安そうな上目遣いになった。




