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失うことで得るもの 第四十話

 最後の日、三日目もよく晴れていた。

 夕食後、もう暗くなった時間だったが、俺たち三人は司令部の中庭に出ていた。


 たまには一般兵向けの食堂で食べようと言うことで訪れていたそこはよく暖められていて、品物はどれも味が濃く、食事をすると身体が熱くなるのだ。

 時間帯もあり人の気配も多く、熱気もあり汗ばむほどだった。

 兵士たちは物珍しそうに俺たち三人を見ていた。その視線も気になったので早めに後にすることにした。

 早雪の終わりは近くとも日が落ちればまだ外は寒いので、一度冬の名残のある夜風に当たって涼んでから部屋に戻ろうと言うことになったのだ。


 金属のドアノブは外の冷気に冷やされて握った手の皮が貼り付いてしまうかのように冷たかった。それを手に温めるように握りゆっくりと回しながらドアを押すと、逸る勢いでドアにつま先がぶつかりボンと響くような音がした。


 隙間から入り込んだ外の風が頬に当たると、火照った顔から体温をみるみる奪っていった。

 子ども一人が通れるほどになるとセシリアは飛び出してくるくると回ってこちらを振り向いた。急な寒さのせいなのか、顔は膨らみリンゴの様に真っ赤になっている。


 セシリアは後を追いかけたアニエスに捕まりマフラーを巻き付けられると、くすぐったそうに顔を丸くして目をつぶった。そして、鼻を膨らませて白い息を上げた。


 俺も二人に続いて外に出た。そして、辺りを見回した。


 新しく作られた北公軍のノルデンヴィズ司令部のコンクリートの壁は背が高く、霧星帯もスプートニクも見えなかった。

 司令部はまだ稼働中だ。いつから稼働しているのだろうか。連盟政府との争いにおける戦場ではない中心であるここが休まることはきっとない。

 不夜城の窓はまだ灯りが付いていて、暖色ではなく昼光色に近い光が漏れ出して司令部の地面や通路にせわしなく歩く人影を投げかけている。

 高い壁のさらに上、屋根に設けられた換気口は熱気を放ち、揺れる空気が照明の灯りを曲げている。

 星空は昔のノルデンヴィズと比べると、だいぶ見えづらくなっていた。


 いつも昼には来ている場所なのに、まるでどこか知らない土地にでも来てしまったかのような錯覚に陥った。


 セシリアを肩車で持ち上げると、彼女は夜空に手を伸ばした。見えている光の強い星に向かって手を伸ばしているのだ。

 届かないで欲しいと思った。届けばそのまま星の世界に飲み込まれてしまうのではないかと不安になった。

 俺はすぐに彼女を下ろしてしまった。すると彼女ももう満足したのか、部屋に帰ろうと言ってきたので戻ることにした。

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