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失うことで得るもの 第三十七話

「だから、周りの権力者は与えようとするのです。

 その権力者に都合の良い良心につけ込み、そのただの力を自らのものとせんために。

 しばしば、その楔のような立場は所詮は飾りと言われるかもしれません。

 ですが、飾りではなく、高度なことを求められなくとも実際に必要とされる立場を与えれば、その責任によって楔はますます強く打ち込まれます。

 都合のよい良心の持ち主であればあるほど、出来ることへの責任感を奮わせ、放棄したときの罪悪感を想起させることにより、それは効果的になります。


 あなたは実に都合の良い方だ。権力者にとってこれほど扱いやすい力は二つとない。

 あちこちが取り込もうと動き、その結果あちこちで立場を得ました。

 しかし、あなたは立場に無頓着であるが故に、楔を打たれてもとどまることはしませんでした。

 よく思い出してください。共和国の四省長官とは会おうと思えばすぐに会える。ユニオンの大統領にホットラインを繋げる。北公の総統閣下とは旧知。ブルゼイ族では王家末裔の義理の父。

 極めつけはフェルタロス家という世界最大最古の国のルーア皇帝分家の末裔が内縁の妻。それから連盟政府の……。

 扱いやすくありながら、していることを容易に咎めることも出来ないという、実に困った方だ。

 そのようなことは本来なら有り得ないのです。ただの力と向上心だけでは、なろうとしてもなれませんよ?」


「それは信頼で得たものじゃない。お前の言う“ただの力”でつながっているだけだ。

 その力がなくなっても傍にいてくれるのはきっとセシリアとアニエスだ。俺にはその二人さえいれば満足だけどな」


 それに、その“ただの力”ですらもらい物だ。

 今や誰も信じてはくれないが、まだ女神と言う存在がこの世界に祝福を与えていた時代の名残だ。

 当たり前のように使っているが、ある日突然ろうそくの火を吹き消したかのように消えて使えなくなるかもしれない。かつて勇者と呼ばれていた祝福を持て余していた者たちが辿ったように。


「その力が神から貰おうとも自ら身につけたものであろうとも、力であることにかわりません。

 ですが、力は持つ者によって行使のされ方がかわるのです。

 力を持つ者のほとんどは、力によって賞賛を繰り返し得て、時間が経つにつれて力が素晴らしいのではなく自分自身が素晴らしいという間違った万能感に耽溺し、やがて必ず偏りを示すようになります。

 賞賛されることに慣れきり、間違いを指摘する者を切り捨て、自分を褒め称える者だけで自分を囲います。その内輪の中でもさらに扱いを分けていきます。

 取り巻きで気に入った者には力を貸し、何となく気に入らない者には協力せず努力が足りないからと罵る。それどころか妨害に走ることもあるでしょう。

 そういうのは明確に態度に示さなくとも気づかれて軋轢を生みます。


 しかし、あなたは何故か、これだけ彼方此方に顔を出しておいて、どこからも面従腹背だと切り捨てられることなくその立場を失なっていない。

 何故というのも白々しいですね。その理由は最初に戻るのです。

 あなたはやり方にこだわる上に、世界を平和的に繋げようとしているから。

 騙すことなど出来ない新たな時代の指導者たちは、現実に叩きのめされて潰えた彼らのかつての夢であったかもしれないそれを、あなたの中に本気で見いだしているからなのです。

 信頼などという薄っぺらいものでは語り尽くせない、複雑な何かをあなたに期待しているから。

 ウソをつくのが下手くそなあなただからこそ、それは尚更なのでしょう」


「クソ。黙れよ。たまたま渡り歩いてきたところがそのときは敵対していなかっただけだろ?」

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