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失うことで得るもの 第三十四話

 天気がよく風も心地よいのに窓も閉めきったままだった。

 アニエスがいないと俺は面倒くさがって窓を開けないのだ。毎日開けないとカーテンの下に埃が溜まるから、とちょくちょく怒られている。

 部屋は静かで義手の軋む僅かな音が聞こえたのか、ムーバリの笑顔は申し訳なさそうなものに変わった。


「かつてマゼルソン法律省長官は私に言いました。

『失敗は成功の母である。だが、繰り返せば母はやがて過保護になる。成功無き経験はやがて何もしないという教訓を生む』と。

 あなたは経験を積み短期間で強くなられたが、その分臆病にもなりましたね。長官選挙の時が一番向こう見ずでしたね」


「……失敗ばっかで悪かったな」


 繰り返した失敗。

 そう。あのときシロークは長官にすることができたが、彼の唯一無二の親友、マゼルソン法律省長官の息子カストを死なせてしまった。

 死なせたのはメレデント元民書官もそうだ。俺の左肩に銃弾を撃ち込みやがって、死んでしまえ、とも思ったこともあった。

 だが、彼にも家族がいた。たった一人。それもまだ子どものウリヤを遺してしまった。孤独な彼女は今マルタンの亡命政府で担ぎ上げられている。

 彼女の本心で亡命政府に関与もしくは率いているのかは分からない。だが、いくら賢くとも、女の子一人の方には重すぎる。

 さらに言えば、オリヴェルの父親までも自殺に追い込んだのは、他でもない俺のしたことに起因する。

 考えないようにはしていた。だが、ムーバリに突きつけられて思い出し、俺はムーバリの目を真っ直ぐには見られなくなった。失敗はそれだけではない。

 視線を逸らすのを誤魔化すように目を潰し、首を下げて顔を下に向け義手を見た。無意識の手遊びで親指と人差し指を擦っていたのが目に入り、それを止めた。


「いえ、やはりあなたらしいと言いますか。そういうところが私もクロエも無視できないのですよ。

 あなたの求める理想は、あなたのやり方では困難です。ですが、困難なだけであって不可能ではありません。

 あなたはそれを諦めずに、疲れても疲れてもなお突き進もうとしている。

 私たちのような日の当たらない存在も不可能に近いことをしなければいけないときもあります。

 私たちの場合、成功の結果以外のものは存在せず、手段について何一つ問われませんが、あなたは手段にこだわります。

 あなたは不可能に近いことを、結果だけで無く過程も重視するという最も遠回りになる方法を用いて成し遂げようとしているのです」


「効率悪くて悪かったな」


 理想の為に時間をかけているが、果たして時間をかけて分だけの成果を得られているのだろうか。時間をかけるだけかけたが、かけ過ぎたせいで釣り合いが取れていなかったり、剰え間に合わなくなったりしていないだろうか。

 確かな目的はあるが、それは大きくぼんやりとしたもので明確な一個ではないのだ。いくつもの小さな成功の果てにそれは成し遂げられる。

 しかし、どの遂げるための無数の小さな方法の一つ一つが突発的なものであったり、あまりにも小さすぎたりで明白ではない。

 だから、それに対する評価を自分の中で出来ないのだ。第三者の評価を、と言って逃げることは出来るが、第三者が評価する為にも明白な目的が無ければいけないのだ。

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