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失うことで得るもの 第三十二話

 ムーバリを遮るように言ったが、彼は止まること無く続けた。


「他所がブルゼイ族の新国家を北公の傀儡政権であるとレッテルを貼るのは非常に困ります。ブルゼイ族もそう呼ばれることを危惧して鉱床譲渡の条件を具体化しました。気分が良くないのは我々北公もブルゼイ族も同じ。

 そもそも、ブルゼイ族は国家再興を北公に託している時点で、傀儡などと言う言葉でまとめるのはあまりにも想像力の欠如した愚か者のすること」


「じゃ何になるんだよ。支配地域か?」


 当てつけのように言われた言葉に、ムーバリを睨みつけて語気を強めて言い返した。

 だが、ムーバリは愛想笑い一つ見せなかった。「そんな乱暴ではありませんよ。そうですね」と顔を上げて考え込むようになった。


「いわば“より親密な後見人”みたいなものでしょう。

 我々は元あったものを揺り起こしただけであり、生みの親というのは些か言い過ぎですね。恩着せがましさや傀儡という安直な思考を惹起させるので、改めれば育ての親であり後見人。

 王国さえ出来れば、後は優秀な指導者たり得る者たちを育てていくことになり、やがて育った彼らが国家を運営していくことでしょう。

 セシリアは希望。ただそれだけでありながら、最初に最も必要な存在。希望とはそこに在るだけで価値があり、そして代えがたいもの。そういうことです」


 北公が生みの親、つまり人形職人なら、と考えるとブルゼイ族の新国家は人形ということになる。

 昔話で、その勉強と努力が嫌いな人形は様々な困難をのりこて真面目になり、学を付けやがては人間になることができた。


 好意的に考えればそうなる。実際、ブルゼイ族は非常に努力家だ。

 それが国家による安寧という人参に引かれた腹を空かせただけの馬の様なもので一時的であっても、今この時点では最善を尽くそうという意思は確かにある。

 様々な困難、とはまさにこの混乱に満ちた時代のことだろう。混乱なくして彼らの再興は為し得なかったが、その中で生まれた以上、そこで生きていくしかないのだ。

 相変わらず甘いと言われるかもしれないが、出来れば死にかけるような苦難を味わって欲しくはない。

 彼らが努力家であるならば、煮え湯を飲まされる様な苦難の末に結果に辿り着くのではなく、もっと平和的で穏やかに最良の結果を得られるかもしれない。


「まだ国が出来ると言うのは民間では噂でしかなく、北公上層部やブルゼイ族執行部で議論されている段階に過ぎません。

 ですが、すぐに広まり、国が出来て当たり前という風になるでしょう。

 そうなるとおそらく連盟政府側も具体的な動きを見せてきます。例えば、頭や希望を潰しにかかるとか。そうなったときに、セシリアが公人であったほうが守りやすいのです」


 国が出来るのは全くもって反対する理由は無い。努力家であり前向きなブルゼイ族と頑固だが堅実なスヴェンニーが民族間に横たわっていた理由も分からなくなっていたほどの紛争を和解し、共に未来に向けて歩み出そうとしているのを止める理由は俺には無い。


――いくつかの理由を除けば。

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