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失うことで得るもの 第三十一話

「民主的な国家が多いからと言って、包み込む気候も育まれた価値観も異なるにもかかわらず、それが全ての地域に等しく適切であるかどうかについてのは判断しかねます。

 それはともかく、確かに仰るとおりに王政や君主制はもはや時代遅れです。

 ですが、ブルゼイ族は女王を中心としたかつてのブルゼリア王国を再興するつもりです。

 そのブルゼリアがブルゼリアたるには、かつての王族のセシリアが必要なのです」


「だからそれが時代錯誤……」


「よく考えてください。まだ幼いセシリアが国を実際に動かせると思いますか?

 彼女はブルゼイ族の希望として王位に就くだけなのです。彼女に求められるのは政治力ではありません。

 希望という、形にはならないが確かに存在する。そして、唯一無二であるという重要な立場だけなのです。

 彼女がいるからこそ、新王国という彷徨える民の大きな止まり樹が出来るのです。

 王政が時代遅れであることはブルゼイ族も理解しています。王が政治を執ることが大事なのではないのです」


 王国とは王がいれば王国と呼んでも差し支えない。名前に王国が入っていようとも王は王という立場に就いているだけで、政治には積極的に関与しない国もある。

 実際に政治を行う議会なり組織なりを新たに作り上げ、そこに足を突っ込むということか。


 だが、下手に議会を作り、妙に賢い人材を多く登用し権力の分散を図るよりも、絶対的な権力を持つ王――しかも子どもならなお――を操る方が傀儡としてはやりやすいはずだ。

 それに、その“妙に賢い人材”がどれほど国家に忠誠を誓っていても、やがてはその中の誰か一人が、内外の何者かに焚きつけられたり、実績と忠誠心故に自己を過大評価したりで全権力掌握の妄想を抱きはじめてもおかしくない。


「我々北公はブルゼイ族の議会を立ち上げ、政治はそこに委ねます」


「北公が立ち上げるブルゼイ族の議会なんざ、北公の言うなりじゃないかよ。傀儡を嫌がって立ち上がっても、それじゃ傀儡と何も変わらない」


 傀儡という言葉にムーバリは眉をしかめ、「傀儡と言うのは実に聞こえが悪いですね」と顎を引いて口をへの字に曲げた。


「では、いきなり国家運営の全権をブルゼイ族に与えますか?

 放浪の民であり、高等な教育を受けている者がとても少ない。下手をすればいないかもしれない人たちに、地政学的に重要な位置にある新たな国家の未来をいきなり託しますか?」


 確かにそうだ。俺は何か言い返そうと試みたが、ん、ぬ、と喉の奥を鳴らすだけで何も言えなくなった。

 国を維持しなければ、ビラ・ホラの硝石鉱床も危うい。それは最終的に北公にも大ダメージである。

 起きてしまった戦争で、独立を掲げた北公と再服従をさせようとする連盟政府のどちらの肩を持つというのは答えられない。俺は和平を求めて動いていたはずだからだ。

 だが、独立さえ正式に勝ち取れば蹂躙まではおそらくしないであろう北公と、スヴェンニーやブルゼイ族の文化を、二度と変な気を起こさせない為に根絶やしにしようとする連盟政府を比べれば、どちらに傾くかは言わずもがなだ。

 極めて個人的な考えだが、無視することは不可能だ。その上で俺はムーバリの言ったことに言い返せなかった。


「傀儡政権というは、操る国が在って初めて成立します。あなたは人形なしで人形遊びが出来ますか?

 北公の支援無くして成り立たないようでは傀儡とすら言えないでしょう。北公は人形使いなどではなく、もはや生みの親です。

 仮に新国家を人形に例えるとしても、自分が作り上げた人形を信用の評価も出来ないような何処ともしれない者たちに操られて楽しいですか?

 人形とは言え自我を持ち、やがて人間として目覚めるなら、せめて人間になるまでは手元においておくでしょう? 世の中には阿漕なキツネやネコはいても、心優しいコオロギはいないのですよ」


「もちろん、お前らもそうではないがな。マグロでもない」

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